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2014年04月18日

『2030年 アメリカ情報機関が分析した「17年後の未来」』 米国国家情報会議編 (講談社)

2030年 アメリカ情報機関が分析した「17年後の未来」 →紀伊國屋ウェブストアで購入

 アメリカに国家情報会議(NIC: National Intelligence Council)という機関がある。もともとはCIAの一部門だったが、1979年に独立して現在の形になった。

 NICは大統領の任期にあわせて4年ごとに15~20年先の世界情勢を予測した NIC Global Trends を作成している。当選した新大統領はNICの中長期予測を読んで国家戦略を練るわけだ。

(立花隆氏の解説によると公開版は大統領に提出される完全版を抜粋したものではないかという。確かに骨組だけという印象を受けるので、抜粋という推測は説得力がある。)

 本書は第一期オバマ政権のために作られた NIC Global Trends 2030 の邦訳で、公開されているものとしては最新版である(第二期オバマ政権のために NIC Global Trends 2035 が作られているはずだが、まだ公開されていない)。

 いくら巨額の予算を投じて作成されたにしろ、予測は予測だからNICの読み通りに世界が動くとは限らない。しかし当たるかどうかはそれほど問題ではない。アメリカの国家戦略が NIC Global Trends をもとに立案されていることが重要なのだ。アメリカの政財界の指導者たちが NIC Global Trends で示されたビジョンを議論の前提として共有していることも間違いないだろう。

 本書は2030年までに起こる世界の四つの構造変化をまとめた「第1章メガトレンド」、構造変化にともなう六つの潮流をまとめた「第2章ゲーム・チェンジャー」、今後ありうべき四つのシナリオを検討した「第3章オルターナティブ・ワールド」の三章構成になっている。

 未来予測は人口動態を基礎にしているものが多いが、「メガトレンド」の筆頭にあげられているのは人口ではなく、IT技術の普及による「個人の力の増大」である。

 スマートフォンに代表されるIT技術で個人の力はかつてなく大きくなり、社会問題の解決でも非政府系の団体の果たす役割が拡大する。その一方、個人や小集団が破壊的な技術を手にする危険性も大きくなる。

 世界的に中間所得層が増え、特にアジアは急激に豊かになる。

 かつては所得が増大して都市人口が増えればグローバル・スタンダード(欧米流の価値観)が途上国にも浸透すると考えられていたが、イスラム圏ではイスラム的な価値観が復活しており、今後各地で欧米流の価値観と伝統的価値観の衝突が表面化していくだろう。

 「メガトレンド」の第二は権力の拡散で、2030年の世界は覇権国家が存在しないという世界史上前例のない状況が生まれているかもしれない。

 第三は先進国の高齢化で、特に日本は急激に衰退する。

 第四は食糧・水・エネルギー問題の連鎖である。中間所得層の拡大は食糧・水・エネルギーの争奪戦を激化するが、エネルギーよりも水の方が深刻としている点が目を引く。

 再生可能エネルギーは不発に終わると斬って棄てている(2050年まででも4%増)。

 第2章では世界の流れに影響する六つの潮流をとりあげている。

 第一は経済危機の頻発で、一番不安な国としてあげられているのは日本である。アメリカの選良は日本はもうお終いだと見ているのである。

 では中国が世界一の経済大国になるかというと、そうではない。中国の経済的繁栄は短期に終わり、貧しいまま高齢化社会をむかえる。2030年でも一人あたりGDPはG7平均の1/4にすぎない。

 第二は国家の統治力が変化に対応できなくなることで、都市や地域主権などが影響力を拡大し、意志決定がより複雑化する。

 危険なのは独裁から民主主義に移行中の国家である。現在約50ヶ国が独裁政治から民主政治への途上にあるが、民主化の動きはジグザグに進み、不安定な政情がつづくだろう。

 中国は民主化のきっかけになるとされる一人あたりの購買力平価1万5千ドルのラインを5年以内に越えるとみられるが、中国の民主化をめぐる混乱は周辺各国に多大な影響をおよぼすだろう。

 第三はアメリカは「世界の警察官」の役割を果たせなくなり、「大国」が衝突する可能性が高まることである。

 イスラム原理主義のテロは2030年までには下火になるが、テロがなくなることはない。テクノロジーの進歩がテロリズムをより破壊的にする。

 第四は地域紛争の増大である。

 中東ではサウジアラビアが凋落し、近隣諸国へ援助することができなくなる。シーア派と親イラン勢力が台頭し、イエメンが火薬庫となる。

 南アジアではパキスタンが鍵となる。パキスタンとインド関係が改善し、双方が経済成長してイスラム過激派が縮小するのが最善の道だが、パキスタンとアフガニスタンがよりイスラム化すれば緊張が高まり、政治的・社会的に破綻すると手がつけられなくなる。

 東アジアでは「経済は中国依存・軍事は米国依存」の状況は変わらないが、四つのシナリオが考えられる。

  1. 現状維持型
  2. 新均衡型
  3. EU式の共生型
  4. 中国覇権型

 最後の「中国覇権型」は日本の衰退が急激に進むか、インドの台頭が遅れた場合である。

 第五は最新技術の影響力で、水をめぐる紛争や気候変動の影響を克服するためにも最新技術がもとめられる。

 第六はアメリカの役割の変化である。アメリカは覇権国ではなくなるが、依然としてトップ集団の一位でありつづけるだろう。かつて2020年にGDPで中国に抜かれるという予測があったが、世界トップレベルの大学、安価なシェール系燃料、移民流入による若い労働人口のおかげで、2030年でも一位を維持しつづける。

 不安定要素としては高齢化による医療負担増、中等教育の水準低下、所得分配の格差拡大があげられる。

 アメリカが再成長するという楽観的なシナリオと、没落するという悲観的なシナリオがありうるが、再成長するためにはヨーロッパの経済的安定が不可欠である。

 第3章では以下の四つのシナリオが検討されている。

1.欧米没落型

過激な国家主義と排他主義で自由貿易圏が姿を消す。中国とインドは政治・経済システムの近代化に失敗する。

2.米中協調型

本書がもっとも望ましく、蓋然性が高いとしているシナリオで、アメリカ、中国、EUが協調して世界の課題にあたる。

3.格差支配型

勝ち組国家と負け組国家がはっきりわかれる。アメリカはシェール系燃料で勝ち組になるが、孤立主義の傾向を強める。

4.非政府主導型

非政府組織や多国籍企業、団体、準国家的な単位(巨大都市)が繁栄し、地球的なの課題を解決する。米中協調型につぐ成長をみせる。

 意外だったのは「格差支配型」のシナリオが日本に有利なことである。日本は「格差支配型」の世界では勝ち組国家になるらしい。

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