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2014年03月31日

『各界著名人セレクション best13 of ゴルゴ13』 さいとう・たかを (小学館)

各界著名人セレクションbest13 ofゴルゴ13 →紀伊國屋ウェブストアで購入

 13人の著名人が選んだ傑作集。各編の後に推薦者のインタビューがあり、思いのたけを語っている。各界のエキスパートの弁だけに面白い。

 自選集は地味な作品が多かったが、こちらは大仕掛けでスカッとして、ゴルゴ13本来の面白さが堪能できる。

「動作・24分の4」(舘ひろし)

 1973年4月に発表されたマフィアの抗争もの。依頼人は殺されてしまい、ゴルゴにも刺客が送られるが、みごとに仕事を果たす。

 分厚い防弾がラスに守られたターゲットをいかにして狙撃するかが見せ場になる。

 推薦者の舘ひろし氏はアニメでゴルゴの声を担当しているが、「……」をいかに表現するかに心を砕いているという。ガン・アクションに注目して本作を選んだのは石原プロらしい。

「銃殺人ひとり」(秋本治)

 1974年1月に発表された復讐もの。メキシコの大農園主デ・ガルシアは息子のアントニオを誘拐され、警察の不手際で殺されてしまう。犯人グループは逮捕されるが、メキシコには死刑がないのでデ・ガルシアはゴルゴに「死刑執行」を依頼する。

 面白いのは依頼の仕方が正規の方法ではないこと。デ・ガルシアは裏世界のルートをもっていないのでゴルゴの存在も知らなかったが、射撃場でのふるまいからゴルゴの腕前とプロの処世を確信し、男と男の直談判をする。ラストも男と男の信義にもとづいたものだ。

 推薦者は「こちら葛飾区亀有公園前派出所」の秋本治氏。ゴルゴに接点があるようには思えなかったが、銃を精密に描き、しかもその性能がストーリーに組みこまれている点に感服しているよし。多くの脇役をロシア人ならロシア人らしく的確に描きわけていることもプロの目から見てすごいそうである。

「見えない翼」(玉袋筋太郎)

 1985年11月に発表されたステルス戦闘機開発をめぐるスパイもので、依頼人はKGBである。

 任務を果たした後、レーダー網に囲まれた砂漠の真ん中の基地から脱出するには開発中のステルス機を奪うしかないと依頼者から告げられるが、ゴルゴは肝心のステルス機を爆破してしまう。ではどうやって逃げるのか。ゴルゴが考え出した方法はハイテクの逆であり、実に楽しい。

 推薦者の玉袋筋太郎氏は仕事の前に女を抱きたくなるゴルゴの心境を、体を張った番組の収録前に風俗に行きたくなる自分と重ねあわせて語っている。ゴルゴがセックス中に表情を変えないのは相方の女性をプロファイリングしているからだというが、風俗嬢のプライベートを詮索したがる玉袋氏の覗き趣味からの邪推だろう。

「白龍昇り立つ」(山野井泰史)

 1996年6月に発表された山岳ものである。舞台は冬のチョモランマで、ダライラマによってパンチェン・ラマの生まれ変わりと認定された少年の中国脱出にゴルゴが手を貸すが、中国側は最高の山岳技術と装備をもった秘密の山岳部隊に後を追わせる。追う方も追われる方も8000mの雪山でサバイバル技術の粋を尽くして戦う傑作である。

 劇画として面白いだけでなく、発表時期がすごい。本作は1996年5月25日号から6月25日号に連載されたが、まさに連載中の5月28日に、中国政府はパンチェン・ラマ11世と認定された少年の拉致を認めたのである。

 作中では秘密の山岳部隊は山越えをしてインドにはいろうとするチベット人亡命者を殺すために編成されたという設定になっているが、本作の11年後の2007年に射殺の模様を映した映像が公開され、世界に衝撃をあたえた。作中のような立派な装備はないらしいが、山岳部隊は実在したのである。

 推薦者の山野井泰史氏は世界的な登山家で、作中にもアルパインクライミングの名手として名前が出てくる。普通のスポーツでは全力を出しきると気持ちがいいが、難ルートを無酸素で登攀するクライマーがそれをやると生き残れない。ゴルゴも苦しそうに見えて、実は余裕を残しているのではないかという観察は鋭い。

「穀物戦争蟷螂の斧汚れた金」(福井晴敏)

 1982年1月に発表された相場もので、前年に発表された「穀物戦争蟷螂の斧」(第54巻所収)の続編にあたる。穀物メジャーに戦いを挑んですべてを失った元丸菱商事ニューオリンズ事務所の藤堂が池袋のボロアパートを拠点に捲土重来をはかる。大相場を演出するためにゴルゴにある依頼をするが、これが全盛期の「スパイ大作戦」を思わせる奇想天外な計画なのである。ゴルゴ・シリーズの中でも随一の傑作といえるだろう。

 推薦者の福井晴敏氏は前編・後編で大作映画になると太鼓判を捺している。邦画といっているが、ハリウッドに売りこむべきだろう。

「ミステリーの女王・2」(小川直也)

 1979年に発表された名作「ミステリーの女王」(第43巻所収)の続編で、22年後の2001年5月に発表されている。前作ではゴルゴをネタにした小説を書こうとした女流作家が消されたが、2ではデジタル映画の製作にスケールアップしている(3D映画の方がよかった思うが、「アヴァター」の8年前だからしょうがないか)。

 見せ場は広大な敷地をもつ傭兵訓練所の中に立てこもったターゲットを軍隊級の大がかりな武器でどう攻めるかで、ブラフを上手く使っている。

 推薦者は格闘家の小川直也氏で、ゴルゴがいつまでも若いのは、常にアウェイで戦っているからだと語っている。

「PKO」(谷垣禎一)

 2004年3月に発表された国際通貨ものである。PKOは「国連平和維持活動」の方ではなく、「為替介入」(price keeping operation)の方。

 日本はATMと揶揄されるようにアメリカの言いなりになってアメリカ国債を買い支えてきたが、本作では日銀副総裁が骨のある官僚で、EUと協力してドルを基軸通貨から引きずり下ろそうと画策する。アメリカのローズ大統領顧問はゴルゴを使って副総裁に脅しをかけるが、才女のタイス補佐官は暴力を嫌い、話しあいで解決しようとするが……。

 推薦者は発表当時、財務大臣をつとめていた谷垣禎一衆議院議員。国会の質問で本作がとりあげられることがわかり、あわてて読んだところリアルなのに唸り、「今の立場を離れて読めば面白い」と答弁したそうである。

「白夜は愛のうめき」(富野由悠季)

 1969年5月に発表された初期の傑作である。裏切った夫を過失で殺した過去のあるワケありの美女がゴルゴと最初はタクシーで、次は胴体着陸した飛行機に乗りあわせて親しくなる。二人は一夜をともにし、激しく愛しあう。

 翌日ゴルゴは殺しの仕事に向かう。現場から撤収する途中、ゴルゴは別れたばかりの女と出くわす。彼女はゴルゴが忘れられず、彼を追ってきたのだ。正体を知られた確証はなかったが、ゴルゴは女を射殺する。ゴルゴのキャラクターはこの一作で決まったといって過言ではない。

 推薦者の富野由悠季氏はストーリーが偶然の連続で強引に進められている点、余計なセリフを入れずにゴルゴの世界を想像させる点を指摘し、「貸本時代の劇画のテクニック」を持ちこんだとしている。

「バスク・空白の依頼」(秋元康)

 1993年10月に発表された記憶喪失もので、ラドラムのジェイソン・ボーン・シリーズに触発されたと思われる。記憶を失ったゴルゴの世話を焼く男っぽいヒロインが魅力的だ。

 推薦者の秋元康氏はヒット曲はメロディーが親しみやすいだけでは駄目で、アレンジが新しくなければならないが、ゴルゴが長くつづいているのはパターン化したストーリーを斬新な切り口で見せているからだろうと語っている。

「五十年の孤独」(佐藤優)

 1994年8月発表のホロコーストものである。ユダヤ人救出のために獅子奮迅の働きをしながら、ドイツ降伏後、ソ連軍に拉致されて行方不明になった実在のスウェーデンの外交官ラウル・ワレンバーグがウラル地方の収容所で生存していたことがわかり、ユダヤ人の富豪が救出に乗りだす。ゴルゴの任務は作戦の一番重要な部分だけだったが、GPU側の反撃は予想以上で、結局ゴルゴが脱出行を引き受けなければならなくなる。

 アクションとしてよくできているのはもちろんだが、枢軸側に転じたハンガリーにおけるナチスとの駆引が滅茶苦茶面白い。

 推薦者は佐藤優氏で、ゴルゴは外交官の間でも人気があり、モスクワ大使館では新刊をとりよせて回し読みしていたそうである。ゴルゴは国益に係わる仕事も引き受けるが、国家は自前の暴力装置をもとうとするので、日本以外の国の人々にはリアリティがなく、単なるアクションものとしか読まれないのではないかという。ゴルゴは日本だから成り立つ物語だという指摘はさすがである。

「ロッフォードの野望」(眞鍋かをり)

 1984年8月発表の異色作。世界一の大富豪ロックフォードがゴルゴを専属狙撃手として雇おうとする。ゴルゴはもちろん断るが、ロックフォードは世界中の銀行に手をまわし、ゴルゴの全財産を凍結してしまう。兵糧攻めにされたゴルゴはどう反撃するか。

 推薦者の眞鍋かをり嬢はクレジットカードが突然使えなくなって焦っているゴルゴの姿が貴重だと語っている。ゴルゴの資産運用が垣間見えるとか、女性の関心は現実的である。

「モスクワの記憶」(高野孟)

 1993年8月発表の日ソ関係秘史もの。ソ連崩壊後、秘密文書が大量に流出して現代史の暗部がつぎつぎと明かになったが、日ソ停戦交渉に途中まで携わった関東軍元参謀の金子が日本兵シベリア抑留の真相と、戦後にフィクサーとなった二階堂副参謀長の正体を暴こうとモスクワに向かう。二階堂の方も旧ソ連の人脈を動員して金子を消そうとする。金子はゴルゴが何者かも知らずに単なるボディガードのつもりで雇うが……。どんでん返しに次ぐどんでん返しで、歴史の奥深さをのぞいた気分になる傑作。

 推薦者の高野孟氏は松本清張の『黒い霧』シリーズと比較し、『黒い霧』は善悪をわけてしまうきらいがあるが、ゴルゴは二階堂の言い分にも一理あるのではないかと思わせるところまで描いていと評価している。

「デロスの咆哮」(浦沢直樹)

 1968年12月発表の最初期作品で、KGBはフランスの国防大臣を籠絡するために、ナチスに誘拐されて行方不明になったとされていた妻子の偽者を仕立てる。フランス情報部は「妻子」の殺害をゴルゴに依頼する。

 全体にセリフが長くゴルゴもよく喋る。ちょっと上手な狙撃手といったところで、敵に簡単に捕まってしまう。後年のオーラはまだない。

 推薦者の浦沢直樹氏は1983年の『ゴルゴ13 別冊』の空いた頁に載った「BETA!」がデビュー作だそうで、漫画の可能性を広げた作品としてゴルゴの意義を語っている。

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