« 『各界著名人セレクション best13 of ゴルゴ13』 さいとう・たかを (小学館) | メイン | 『神話論理〈4-1〉裸の人〈1〉』 レヴィ=ストロース (みすず書房) »

2014年03月31日

『さいとう・たかをセレクション best13 of ゴルゴ13』 さいとう・たかを (小学館)

さいとう・たかをセレクションbest13 ofゴルゴ13 →紀伊國屋ウェブストアで購入

 連載開始35周年にあたる2003年に出たさいとう・たかを氏自選の傑作集で、ゴルゴ13にちなんで13編をおさめる。読者だったら選ばないような渋い話が多い。派手ではないが、情念が内側でたぎっているような深みがある。

 1200頁近くあって枕になりそうな厚さだ。判型は週刊誌と単行本の中間のA5版で、迫力がある上に絵の細部まではっきりわかる。愛蔵版としてはこれくらがちょうどいい。

 さいとう・たかを氏のインタビューの他に大谷昭宏氏、船戸与一氏、齋藤孝氏、DO AS INFINITYのインタビューが併録されているが、無名時代にゴルゴの脚本を書いたことがあるという船戸与一氏の話が面白かった。

「死闘ダイヤ・カット・ダイヤ」

 1983年7月発表のダイヤモンド業界の内幕もの。ダイヤモンド業界を牛耳るデ・ロアズ社に一度はつぶされた新興ダイヤモンド採掘会社が再び挑戦する話である。

 ダイヤモンドの稀少性を維持するために、品物が余った場合は深海に棄てるという話が出てくるが、単なる金儲けのためではなく、ユダヤ財閥とアラブのオイル・マネーの暗闘がからんでくる。

 誰も死なない結末は痛快である。

「檻の中の眠り」

 1969年3月発表の初期作品。脱獄不可能の監獄島を舞台にした映画はたくさん作られているが、本作は「アルカトラズからの脱出」の10年前に書かれている。

 ゴルゴは仕事のために自ら無期囚となってアラスカのパンドラ島の刑務所にはいり、ザラスという死刑囚と共に脱獄をはかる。脱獄のテクニックは今から見るとあっさりしているが、十分もっともらしい。不条理な結末がいい。

「2万5千年の荒野」

 1984年7月に発表された原発事故をテーマにした作品。なんとチェルノブイリ原発事故の2年前だ。

 放射能汚染を過大視する一方、水素爆発を軽く見るなど、福島を経験した後で見ると若干のズレはあるが、軽水炉の根本的な欠陥を1984年時点で劇画にしていたとはゴルゴ恐るべしである。

「MOSCOW DOLL」

 1972年11月発表のKGBもの。ゴルゴはある任務のために訓練生を装って雪原の中のKGBの訓練キャンプに潜入するが、物語はゴルゴよりも、同じ時期に訓練を受けていたミーナという娘の視点から語られる。

 ミーナは何も知らない店員だったが、はめられて工作員にならざるをえない状況に追いこまれる。ミーナの人物像が魅力的である。

「すべて人民のもの」

 1988年5月発表のロマノフ王家の秘宝ものだが、ペレストロイカとトロツキー文庫とゴルゴのルーツにからめている点が目新しい(ルーツの話はゴルゴの年齢がわかってしまうので、今では御法度のよし)。

 1988年はグラスノスチでロシア皇帝一家惨殺の情報が明るみに出はじめていた頃に当たる。一家全員の処刑は2007年の遺骨発掘で決定的となったが、当時はまだ物証はなく、このようなストーリーも可能だったわけである。

 しかしゴルゴがやんごとない生まれだったとは!

「ルート95」

 1987年4月発表のマフィアものだが、マフィアのドンが引退してネバダの砂漠の真ん中のモーテルの主人におさまっているという設定が新鮮だ。

 ラストの対決は西部劇を髣髴とさせる。

「マークのリクエスト」

 1994年11月発表の異常犯罪プロファイリングもので、『羊たちの沈黙』を意識しているが、あろうことか、心理分析官はゴルゴをプロファイリングしようとして報いを受ける。

 ゴルゴを「秩序型異常犯罪者」などと決めつけるとは神をも怖れぬ所行で、罰を受けて当然である。

「落日の死影」

 1976年3月発表の化学兵器もの。CIAが大統領令に背いて密かに地下組織に毒物の製造を依頼するが、発覚して大騒ぎに。その地下組織はKGBにも毒物を提供していたことがわかるが、秘密工場がどこにあるかは不明のまま。

 火の粉が降りかかってくることを恐れた某筋はゴルゴに秘密工場の破壊と証拠の隠滅を依頼するが、破壊に動いていたのは西側だけではなかったという展開。

 毒物の原料がコブラだというのが時代を感じさせる。

「夜は消えず」

 1975年3月発表の有名人の前歴もの。ゴルゴはアングレームに休養に訪れるが、その町の町長夫人はかつて娼婦をやっていて、一夜だけゴルゴの相手をしていた。町長夫妻はゴルゴにゆすられると早とちりし、殺し屋を雇ってしまう……。

 ゴルゴの方はろくに憶えていなかったのに、多くの客をとっていたはずの夫人がゴルゴのことを強烈に記憶していたというのは、ゴルゴのセックスが凄かったと暗示しているのだろう。

「ジェットストリーム」

 1973年10月発表のハイジャックもの。ハイジャックされた旅客機にたまたまゴルゴが乗っていて、それを知った警察の依頼でハイジャック犯と戦うという設定。

 ハイジャック犯の人質にされたなら他の乗客と運命共同体になるはずだが、ゴルゴは仕事の依頼を受けるまでは何もしない。恐るべきクールさだ。

「駅馬車の通った町」

 1969年8月発表の初期作品で、ゴルゴの狙撃の腕前が存分に描かれている。舞台は無法者の支配する砂漠の真ん中の町で、保安官はすでに殺されている。さいとう・たかを氏は西部劇がよほど好きのようである。

「神に贈られし物」

 1976年12月に発表された完全犯罪もの。アメリカの球場で大統領候補指名大会が開かれている。依頼は大統領候補の側近を射殺して組織の力を見せつけることだったが、テロ対策責任者はゴルゴを知っていて、犯行後ただちに逮捕してしまう。服から硝煙反応が出たが、ゴルゴの弁護士は大会に行く前に射撃場に行ったと反論する。凶器となったプラスチック拳銃の行方が鍵となるが……。

 拳銃を消すテクニックはあっと驚くほどではないが、なかなか洒落ている。

「BEST BANK」

 1993年5月に発表された銀行合併もの。銀行間の腹の探り合いに、米自由化をめぐるアメリカの思惑をからめており、リアリティがある。。

 バブル崩壊後、大手銀行は多額の不良債権をかかえて金融再編成が喫緊の課題となっていた。銀行の大型合併は本作発表時には噂の段階で、本格化するのは1996年以降だから、数年先取りしていたといえる。

→紀伊國屋ウェブストアで購入

トラックバックURL

このエントリーのトラックバックURL:
http://booklog.kinokuniya.co.jp/mt-tb.cgi/5709