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2013年09月12日

『人類の進化大図鑑』 アリス・ロバーツ編 (河出書房新社)

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 『人類20万年 遙かなる旅路』のアリス・ロバーツが企画・編集した図鑑である。すこし前に邦訳されたストリンガー&アンドリュースの『人類進化大全』が専門的に勉強したい人向けなのに対し、こちらは一般読者向けの図鑑であり、多数の写真を美しくレイアウトしたグラフ雑誌のような作りになっている。眺めているだけで楽しく、想像力を刺激される。

 一般向けといっても、人類学の最新の成果がてんこ盛りにされており、古い知識しかない人はここまでわかっているのかと圧倒されるだろう。

 本書は「過去を知る」(マイケル・ベントン)、「霊長類」(コリン・グローヴズ)、「人類」(ケイト・ブラウン)、「出アフリカ」(アリス・ロバーツ)、「狩猟者から農民」(ジェーン・マッキントッシュ)と五章にわかれ、英国の古人類学者が執筆しているが、一番の見せ場は「人類」の章だろう。

 チンパンジーとの共通祖先から現生人類が誕生するまでにはさまざまな種があらわれては消えていき、複数の系統が入り乱れる複雑な様相を呈していたが、本書は代表的な20の種を選んで解説し、そのうちの12種は化石の頭骨から復元模型を製作し、恐ろしくリアルな写真を掲載しているのである(ホモ・サピエンスだけ男女二体を製作)。

 化石のレプリカにさわったことがあるならともかく、アウストラロピテクス・アフリカヌスとかホモ・ハビリスといわれても、素人には見当もつかない。人類誕生の物語にはさまざまな旧人が登場するが、どれも系統樹の上の名前以上のものではないのだ。ところが本書を開くと、強烈な「人格」となって立ち現れてくるのだ。

 こうした復元模型は適当に作ったわけではない。化石をCTスキャンしたデータをもとに3Dプリンタで頭骨を再現、その上に筋肉と皮膚を法医学の手続ではりつけていき、最後に毛を一本一本手植えしている。初期人類の氷漬け遺体は見つかっていないので復元はあくまで推測であるが、チンパンジーと現生人類の主要な顔筋は一致していることがわかっており、かなり信憑性の高い復元となっている(実際の作業は「過去を知る」の章に四頁にわたって解説がある)。

 どれも強烈だが、特に印象的な種について感想を書こう。

 最初のサヘラントロプス・チャデンシスは今世紀になって発見された最古の猿人である。ヒトとチンパンジーの共通祖先の前か、後かで説がわかれているが、本書では共通祖先と同時期に生きていた可能性があるとし、チンパンジーよりもゴリラに似た顔に復元されている。類人猿の原始的な形態を残しているのかもしれない。

 アウストラロピテクス・アフリカヌスは愛敬のあるチンパンジー顔で、SMAPの中居正広そっくりである。アフリカヌスより現生人類に似ているといわれているが、チンパンジーの方向にもどってしまったようにしか見えない。

 ホモ・ハビリスは女性の化石から復元しているが、ウーピー・ゴールドバーグを凶暴にした感じだ。石器による狩猟をはじめていたらしい。

 ホモ・エレクトスは世界中に広まったが、本書の復元模型はジャワ島で発見された男性の化石を元にしている。黒い朝青龍という感じで、モンドロイドを先取しているように見える。ジャワ原人にはアジア的特徴がすでにあらわれているという記述を読んでもぴんと来なかったが、復元模型で見せられると一目瞭然である。多地域進化説が出てくるわけだ。

 ホモ・フロレシエンシスはついこの間までフローレス島に生息していたアナザー人類である。系統は違うはずなのに、現生人類の中にもいそうな顔である。

 ホモ・ネアンデルタレンシスはイアン・マッケラン演ずるガンダルフという風貌で、ほとんど白人ではないか。間違っているとはわかっていても、多地域進化説はひょっとしたらと思ってしまう。

 特定の化石を元に復元するとその種固有の特徴なのか、その個体の個性なのかを曖昧にしてしまい、学問的ではないという批判もあるだろう。しかし13の復元模型が700万年の人類進化史を手の届きそうなところに引き寄せてくれるのも確かだと思う。

 つづく「出アフリカ」の章では10万年におよぶ現生人類の拡散史が図解中心に解説されている。ここの写真もみごとだ。驚いたのはクローヴィス尖頭器の美しさだ。モノクロの写真や模式図では見たことがあったが、カラーで見たのは初めてだ。クローヴィス石器を作っていた工房遺跡の所有者が一日25ドルの入場料をとって発掘させていたそうだが、こんなのが出てくるのだったら25ドル払おうという素人がいてもおかしくない。

 写真と図解が中心なので文字の量は多くないが、原著刊行の半年前に発表された「ネアンデルタール人のDNAをアフリカ人以外の現世人類が受け継いでいる」という最新の説もちゃんとはいっている。

 『人類20万年 遙かなる旅路』の時点ではネアンデルタール人のゲノム解読は2/3しか終わっておらず、ミトコンドリアDNAには共通点がないという結果から、現生人類とネアンデルタール人の交雑はないとされていた。

 ところが核DNAではアフリカ人以外の現生人類の中にネアンデルタール人から受け継いだ遺伝情報を持つ人々がいるのだ。ヨーロッパ人だけでなくアジア人にもいるということは出アフリカから間もない時期に交雑があったということだろう。そしてミトコンドリアDNAに共通部分が見られないことからするとネアンデルタール人の男と現生人類の女の組み合わせで交雑がおこったことになる。

 ネアンデルタール人の男が現生人類の群れに参加したということは考えにくいから、ネアンデルタール人の男が現生人類の女をレイプしたのか、あるいは現生人類の女がネアンデルタール人の洞窟に拉致され、受胎してから逃げだしたのかのどちらかだろう。寝案であるタール人は滅びたが、その遺伝子のいくつかは現生人類の遺伝子プールの中に残ったのである。

 なお、河出書房のサイトに本書の紹介ページがある。

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