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2012年09月26日

『世宗大王のコリア史』 片野次雄 (彩流社)

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 最近は韓流ドラマの主人公になり日本でも知名度の上がっている李朝第四代世宗を事績を紹介する歴史読物である。本書は1985年に誠文堂新光社から出た本の再刊で別に韓流ドラマの流行にあてこんで書かれたわけではないが、巻末に網谷雅幸氏の「韓流ドラマに見る世宗大王」というエッセイに追加されている。

 著者の片野次雄氏は朝鮮史関係の読物をたくさん書いている人で、1995年に著述を通して日韓友好に寄与した功により韓国政府から感謝状を授与されたよしである。

 副題に「ハングル創製と李朝文化」とあるのでハングルについて詳しく書いてあるのかと期待したが、倭寇討伐、銅活字の改良、出版事業、火砲の改良、天文観測、ソウル造営といった世宗の事績にそれぞれ一章をあてており、ハングルもその一つとしてとりあげているにすぎない(一番詳しく力がこもっているのは火砲の改良と倭寇討伐)。

 世宗は李成桂の高麗簒奪から30年たって李朝朝鮮がようやく安定してきた頃に即位した王である。在位は32年におよび日本でいうと足利義持から義政までの時代に王位にあった。建州女真の征服や日本への通信使派遣など積極的な対外政策をとったこと、多彩な文化事業を起こしたことを考えれば世宗が即位した年に没した足利義満が近いかもしれない。

 世宗が日本との外交に積極的だったのは倭寇対策もあったが、銅を必要としていたという理由が大きい。銅活字を新鋳するにも、天文観測機器を作るにも、貨幣を鋳造するにも日本の良質な銅が必要だったのだ。国内でも銅鉱山を探させたが大した量は出ず、日本銅への依存がつづいた。

 韓国料理では器も箸も真鍮製だが、そのはじまりは世宗の頃にあったらしい。

 両班とよばれる貴族階層の者たちは、日常の生活用具に、真鍮の製品を使うことを、大いなる見栄とした。逆にいえば、真鍮製品の使用こそ、両班の誇りでもあった。
 たとえば両班たちは、飯椀、汁椀、器、皿、箸、匙などに、しきりに銀製品をつかいたがった。しかし純銀づくりの日用品は、あまりにも高価すぎた。そこで両班たちは、見た眼には銀製品に酷似して、しかもさびにくい真鍮製品を珍重した。

 本書は歴史読物だが銅活字の製法や活版印刷の工夫、硝石の製法、火砲の改良など技術面の解説が多く、出版史や科学史に興味のある人は楽しく読めるだろう。

 韓国の文献を参照しているだけに韓国流の歴史解釈がかなりはいりこんでいる印象があるが、李朝が明の属国であり対等ではなかったことはやんわりした表現ながら明記しているし、ハングル創製に貴族の頑強な反対があったことにもふれている。

 もっとも世宗が仏教を弾圧して朝鮮仏教に致命的な打撃をあたえたことは書いていないし、経典一巻を印刷するのに版木が5~6千枚も必要だとか、高麗大蔵経の最初の版木を焼いたのは倭寇といった筆のすべった箇所が散見する。

 学術書ではないのだから厳密性を要求してもはじまらないが、不案内な分野だけにこういう箇所を見ると心配になってくる。あくまで肩のこらない歴史読物して読めばいいだろう。

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