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2011年09月25日

『テルマエ・ロマエ』1-4 ヤマザキマリ (エンターブレイン)

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 表題の「テルマエ・ロマエ」とは「ローマ風呂」という意味のラテン語である。マンガ大賞2010、手塚治虫文化賞短編賞などを受賞、現在第4巻が予約募集中で来年には映画が公開されるという話題作である。

 古代ローマの風呂技術者が現代日本にタイムスリップしてくるギャグマンガと聞いていたが、毎回どんぴしゃりの場所にタイムスリップするという御都合主義の一方で古代ローマの考証がしっかりしているのに驚いた。各話の末尾に見開きで「ローマ&風呂、わが愛」という作者自解が載っているが、この人の蘊蓄は本格的である。

 著者のヤマザキマリ氏は17歳でイタリアにわたってフィレンツェの美術学校で学び、イタリア人と結婚したが、夫君はローマ皇帝の名前をそらで言えるほどのローマ帝国オタクだそうである。年季の入り方がちがうのだ。『古代ローマ人の24時間』あたりは邦訳前から読んでいることだろう。

 古代ローマ人である主人公のルシウス技師は現代日本人を「平たい顔族」と呼び奴隷と勘違いしているが、ローマよりも進んだ日本の風呂文化を知って感激するというのが毎回のパターンである。ルシウス技師の反応は笑えるし、大げさな感動ぶりに日本人として自尊心をくすぐられるが、それだけだったら1巻もつづかないだろう。巻が進むごとに評価が高まっているのは単なるワン・アイデア・ストーリーではなく、古代ローマの社会問題と現代日本の社会問題をリンクさせているからではないか。

 たとえば入浴のマナーをめぐる第7話。ローマ帝国では属州民でも25年間の兵役をつとめればローマ市民権を獲得し都市に住むことができたが、兵士あがりのニューカマーと旧来の市民との間にはいろいろと摩擦が生じた。当然、浴場でもトラブルが起きただろう。『テルマエ・ロマエ』では新旧市民の対立を日本の観光地に増えた外国人観光客の入浴マナー問題と重ねあわせ、ルシウス技師が温泉地の工夫から対立解消のヒントをえるというストーリーに仕立てている。この作品を読んでいるとローマ帝国と現代日本はよく似た社会状況にあるという気がしてきて古代ローマ人に親近感をおぼえてしまう。

 一話完結の不定期掲載から連載に格上げされたのはもちろん人気が高いからだが、構想がしっかり組み立てられていたことも見のがせない。

 ルシウス技師は第4話でハドリアヌス帝に引見され、第2巻の半ばからハドリアヌス帝お抱えの建築家になって政治の裏舞台に係わるようになる。第3巻になると連載マンガのスタイルになってストーリーが複雑化し、皇帝対元老院という政治問題に巻きこまれるようになる。

 ハドリアヌス帝との関係が大きな柱になっているが、帝がルシウス技師を重用するようになったきっかけは愛人のアンティノウスの不慮の死で体調を崩したことだった。アンテイノウスが亡くなったのは紀元130年だが、第1話はその2年前、紀元128年という設定になっている。絵になりマンガの材料に事欠かないハドリアヌス帝との関係を中心にしようという構想は最初からあったはずである。

 まもなく第4巻が出るが、読めば読むほど実によく考えられている。ハドリアヌス帝の治世はあと7年つづくし、次の次の皇帝であるマルクス・アウレリウスが早くも子役で登場している。『テルマエ・ロマエ』にはあと何年も楽しませてもらえそうだ。

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