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2011年02月22日

『ウンベルト・エコ インタヴュー集』 エーコ他 (而立書房)

ウンベルト・エコ インタヴュー集 →bookwebで購入

 「記号論、「バラの名前」そして「フーコーの振り子」」と副題がついていることからわかるようにエーコの三本のインタビューをまとめた本であるが、おそらく日本で独自に編集したものだろう。

 おそらくと書いたのは本書の出自が謎だからだ(ちょっとわくわくする)。

 「エコの髭―日本語版によせて―」という序文がついており、書誌データには原題が"INTERVIEWS WITH UMBERTO"とあるので、英語で出版された原著があるのだろうと思っていたが、調べたかぎりでは原著にあたる本は見つからなかった。

 第一章のルイス・パンコルボはイタリア人でイタリア語、第二章のトマス・シュタウダーはドイツ人でドイツ語と英語、第三章のセース・ノーテボームはオランダ人でオランダ語と英語の本しか出していない(スペイン語版もあったが、翻訳のようだ)。

 ルイス・パンコルボによる日本語版の序文には「このインタヴュー集をはじめて発表した一九七七年には……」とあるが、第二章と第三章は1988年の『フーコーの振り子』刊行以降におこなわれたはずだから、全体の序文と考えるとおかしなことになる(多分、パンコルボは自分がまとめた第一章のみの序文を書いたのだろう)。

 推測になるが、イタリア、ドイツ、オランダの雑誌にばらばらに掲載されたインタビューを訳者の谷口勇氏がまとめた日本独自の出版と考えるのが自然ではないか(そうだとしたらエーコの国際的な活動を一冊で読める日本の読者は幸福である)。

 詮索はこれくらいにして、まずパンコルボによる「記号論の魔術」である。このインタビューは『記号論』(岩波書店、絶版)の出版された1977年にイタリア語でおこなわれたらしい。アントニオーニの映画の感想を枕に、エーコの主著の一つである『記号論』について聞いているが、当り障りのない話しか出てこない。『ソラリス』のレムが「アフォリズムの大家」として言及されているが、パンコルボはSFを読んだことがないのだろうか。

 第二章のシュタウダーによる「『バラの名前』から『フーコーの振り子』へ」というインタビューは『フーコーの振り子』の刊行後にドイツ語でおこなわれたらしい(英語の可能性もある)。

 エーコの分身というべきベルボの経験はアブラフィアというパソコン内部に残されたファイルからカソーボンが再構成するという手続きを踏むが、なぜそのような趣向をとったかについてエーコはこう語っている。

 私にとっては三つのフィルターを介して物語るための唯一の方法だったのです。こんな話は直接的に物語るわけにはとてもいかなかったのです。だって、そんなことをすれば、戦後の写実主義と変わらないことになったでしょうからね。

 あまりにも率直すぎる発言で、ちょっと引いてしまう。

 オカルトについては1950年代から興味があり、オカルト専用の書棚を作るくらい本を集めているそうである。1970年代になって左翼運動が凋落すると、左翼本の専門書店が一斉にオカルトに宗旨変えし、テロリストが精神世界の指導者グルになってしまったそうである。日本でも同時期に元過激派は自然食品のセールスマンに商売変えしている。

 「ユタ州の実験室における冷凍核融合」という文が出てくるが、cold fusion は日本では「常温核融合」と訳すのが普通である。

 第三章のノーテボームによる「講壇から、ピッツァ専門店から」も『フーコーの振り子』に関するインタビューである。

 前振りがあって、ノーテボームがエーコをアムステルダムのオカルト専門の古書店に案内した思い出が書いてある。店主は一見の客に警戒している風だったが、エーコが玄人だとわかると意気投合し、顧客にミラノ在住のものすごい美人の錬金術マニアがいるから紹介しようともちかける。するとエーコは言下に答える。

「そういう人たちに、私がここにきたことを他言しないでください。信者たちとは何の関係も持ちたくないのです。」

 『フーコーの振り子』に登場する「猟奇魔」は実在するのである。

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