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2010年08月19日

『水木しげる 怪奇 貸本名作選―不死鳥を飼う男・猫又』 水木しげる (ホーム社漫画文庫)

水木しげる 怪奇 貸本名作選―不死鳥を飼う男・猫又 →bookwebで購入

 「恐怖」編につづく京極夏彦氏が選んだ貸本名作選の二冊目で12編をおさめるが、どれも文句なしの傑作ぞろいだ。

「不死鳥を飼う男」

 1963年に貸本誌「黒のマガジン」(東考社)第5号に掲載。

 森の中のあばら家に住む貧乏な漫画家夫婦のところに鳥かごらしき包みをかかえた老人が下宿してくる。老人は羽振りがいいらしく、言い値の家賃を半年分先払いするが、布でくるんだ鳥かごは絶対に覗かないようにと厳命する。

 仕事場に使っていた部屋を老人に明け渡したので漫画家は近くの神社の社殿に勝手に机を持ちこみ漫画を描くが、老人の鳥かごの中身が気になって仕方がない。老人の留守中、ついに覗いてしまうと……

 老人と神主の語る神社理論が妙に説得力がある。この作品の発表後2年足らずで水木家には福の神が住みついたから、ひょっとすると……

「庭に住む妖怪」

 1961年に貸本短編集『スリラー』(秀文社)に掲載。

 鬼太郎に似た風貌のガン太郎ものの一編で、金持ちにする代わりに娘が18歳になったら結婚させろと要求する狐の妖怪を退治する話。ヒロインの娘が妖怪じみた顔をしている。水木しげるは萌えキャラが不得意のようだ

「サイボーグ」

 1960年に貸本誌「恐怖マガジン」(エンゼル文庫)第2号に掲載。同号には「髪」(「恐怖」編に収録)が東眞一郎名義で併載されている。

 ノーベル賞一ダース分の名誉がえられると吹きこまれて宇宙探検のためにサイボーグ化を志願する男の話。一応SFものだが、水木しげるだからどんどん怪談化していく……

 貸本時代中期以降の作品には成功の暗黒面を描いた風刺的な作品が増えるが、これはその端緒となった作品の一つである。

「太郎稲荷」

 1964年に貸本誌「忍法秘話」(加藤書店)第12号に掲載。

 コミカルな時代ものの一編。ツッコミ役はだるま家の番頭、ボケ役の三平は丁稚でねずみ男がくわわる。三平はナショナル屋の松下幸之助のような日本一の金持ちになりたいと願いねずみ男の勧めで太郎稲荷に祈ったところ、ちょうど三越屋の当主がなくなり、彼に憑いていた太郎稲荷が三平に憑いてくれる。三平は見違えるような働き者になり、だるま家の養子にむかえられる。金持ちになったのに太郎稲荷は働け働けと三平をせっつき、三平はちっとも生活を楽しむことができない。そしてついに……

 本作発表の一年後、水木は妖怪おいそがしにとり憑かれるが、それを予感させるような一編である。

「空のサイフ」

 1965年に貸本誌「忍法秘話」(青林堂)第18号に掲載。

 コミカルな時代ものの一編。貧乏神の住みついていたサイフをめぐる奇譚で、これも妙に説得力がある。本作を発表した直後、水木家から貧乏神が去っていくが、なにか会得することがあったのだろうか。

「ろくでなし」

 1965年に貸本誌「忍法秘話」(青林堂)第19号に掲載。

 コミカルな時代ものの一編だがボケ役は登場せず、東考社の桜井昌一氏(『ゲゲゲの女房』の戌井さんのモデル)に似たツッコミ役とねずみ男だけが登場。ツッコミ役は「河童膏」という薬をつくる店に雇われ原料の河童の皿とりをしているが、さっぱり見つけることができない。河童を探して川にはいり溺れかけたところを親切な河童に救われ、川の底の家で歓待されるが、そこへ河童の皿とりの名人があらわれ……

 これも成功の暗黒面を描いた話で、非情になれない主人公はねずみ男から「天使病」と診断される。主人公にはどうしても戌井さんの面影を見てしまう。

「ねずみ町三番地」

 1961年に貸本誌「面」(カナリヤ文庫)第2号に掲載。

 安部公房の『砂の女』と似た構造の話なので驚いた。『砂の女』をヒントにしたのかと思ったら、発表はこちらの方が一年早い。安部公房が貸本屋にいっていたとは思えないが、共通のソースがあったのだろうか。あるいは偶然の一致か。

「水晶球の世界」

 1963年に貸本誌「黒のマガジン」(東考社)第2号に掲載。

 はくせい屋の主人が秘蔵する水晶球をめぐる奇譚。殺人に発展するのかと思ったが、さりげなく終わってしまうところが逆に不気味だ。

「ハト」

 1965年に貸本誌「忍法秘話」(青林堂)第14号に掲載。

 コミカルな時代ものの一編。ツッコミ役は金貸し、ボケ役の三太はその息子だ。金貸しはぐうたらな三太をどうにかしたいとねずみ男に相談したところ、ハトを飼わせろと勧められる。三太にハトの世話をさせたところ、急に模範的な子供になって親孝行をはじめたのはいいが、妙に道徳的になって金貸しはいけないなどと言いだし……。

 成功の暗黒面を描いた作品にはいるだろうが、ぐうたらの勧めというべき飄々とした結末がいい。

「猫又」

 1961年に貸本誌「別冊ハイスピード」(三洋社)に掲載。

 主人公の学生は金持ちの息子に誘われ、金になる鉄屑がたくさんあるという戦時中軍の要塞のあった島に出かける。対岸の漁村ではあの島は猫又の祟りがあるといわれていて誰も船を出してくれない。二人はタライ舟を借りて島にわたるが……

 人面瘡ならぬ猫面瘡の話で、これは怖い。

「群衆の中に」

 1964年に貸本誌「劇画No.1」(東考社)第1号に掲載。

 貸本漫画家の長井は同業の花森と久しぶりに会って酒をともにする。花森の漫画が最近低調なので理由を聞くと、花森は妻は人間ではなく妖怪の一族だなどと妄想じみた話をする。長井は聞きながすが、実は……

 大都会も皮を一枚めくると妖怪の住む異界という現代の怪談である。

「太郎岩」

 1963年に 貸本誌「劇画マガジン」(佐藤プロ)第3号に掲載。

 ダイビングで海底に沈んだ神社から真珠の首飾をもってきたばかりに妖怪少女にとり憑かれる女の話。美少女だったらもっと怖かったと思うが、水木しげるにはやはり美少女は描けないようだ。

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