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2010年07月23日

『アーキテクチャの生態系』 濱野智史 (NTT出版)

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 2ちゃんねるやMIXI、ニコニコ動画など日本で独自に進化したアーキテクチャに積極的に意義を見いだそうという本である。世界標準からはずれた日本独自のアーキテクチャはガラパゴス的と揶揄されることが多いが、本書は戦闘的なガラパゴス賛歌であり、ここまで徹底すると爽快感がある。

 最初に理論的な枠組が解説してあってアーキテクチャとは「環境管理型権力」だとあるが、仕掛けに制約されるということを思想の言葉で語っただけであって、面倒くさければいきなり第三章の2ちゃんねる論に飛んでかまわない。本書の読みどころは総論ではなく具体的な各論である。

 濱野氏が各論の最初に2ちゃんねるを選んだのは梅田望夫氏の『ウェブ進化論』(ちくま新書)との対決を鮮明にするためだ。梅田氏は個に立脚したアメリカのblog言論を称揚し匿名に隠れた2ちゃんねる的言論を斬って棄てたが、濱野氏はこの二分法がインテリにありがちの日本社会後進論の蒸し返しだと批判する。濱野氏は否定的にあつかわれることの多いコピペが情報伝達手段として機能していると分析し、「匿名」という言葉の価値を逆転してみせる。

 西村氏のネットコミュニティの設計思想は、初めは本来自由に人々が集まってつくられたウェブ上の「アソシエーション」が、時が経つにつれて排他的で閉鎖的な「コミュニティ」へと変質することを避ける、という点に主眼が置かれています。いってみればそれは、「ネット<コミュニティ>の設計論」というよりも、「ネット上でいかにして<都市空間>をつくるのか」に関する問題なのだというべきでしょう。事実、都市空間は「顔の見えない」「匿名的な」人々が集まる空間であり、だからこそ多様な人々を抱えることができる。かつ、絶えず成員の出入りが生じている。たしかにそれは、2ちゃんねるのような雑多で猥雑なウェブ上の巨大空間を形容するにふさわしいように思われます。

 2ちゃんねるこそ「都市的=匿名コミュニケーション」の場として洗練されたものだというわけだ。

 わたしははてなダイアリーのキーワードリンク機能やニコニコ動画のコメント機能を鬱陶しいと感じてきたが、濱野氏はここでも果敢に価値逆転を試みている。

 はてなダイアリーではキーワードとして登録されている言葉を書きこむと勝手にリンクされてしまうが、自発的な操作が必要なblogのトラックバックは見ず知らずの他人に話しかけるようなものなのに対し、不可抗力的に他者の書きこみと関連づけられるキーワードリンク機能は日本人の国民性に適合していると評価する。

 ニコニコ動画では他人がつけたコメントがテロップとして流れていき、しばしば画面が見えなくなるほどだが、濱野氏は同期という視点からTwitterやセカンドライフと比較し、ニコニコ動画のコメント機能こそは実際は同時に見ているのではないにもかかわらず同時に見ているかのようなライブ感覚を作りだしており、「いま・ここ性」の複製装置になっていると絶讃している。

 わたしははてなダイアリーやニコニコ動画はあいかわらず鬱陶しいとしか思えないが、そういう見方もあるのかと感動した。

 ケータイ小説についても携帯電話の操作のミクロ的描写が心理描写になっていると指摘し、「操作ログ的リアリズム」と名づけている。

 つまり『恋空』という作品は、そのときケータイをどのような「判断」や「選択」に基づいて使ったのかに関する「操作ログ」の集積としてみなせるのではないか。そして読者の側は、そうした「操作ログ」を追跡することを通じて、その場その場での登場人物たちの心理や行動を「リアル」だと感じることができるのではないか。

 その通りに違いない。この分析には盲点を突かれた。

 濱野氏の指摘は鋭いが、「操作ログ的リアリズム」はケータイ小説の本質ではないだろう。というのは「操作ログ的リアリズム」は一般の小説にもとりこめるからである。わたしが知らないだけですでにとりこんでいる作品もあるかもしれない。

 ケータイ小説の本質は速水健朗氏の『ケータイ小説的。』の感想で指摘したようにヤンキー・テキスト群を母胎にするところにあると思う。

 本書は目が覚めるような指摘が多いが、唯一不満をいえば間テキスト性という視点が抜け落ちている点である。おそらく2ちゃんねるやはてなダイアリー、ニコニコ動画にも特有の間テキスト性があるのだろう。そこまで分析を広げてほしかった。

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