« 『電子書籍の基本からカラクリまでわかる本』 洋泉社mook編集部 (洋泉社) | メイン | 『ケータイ小説的。』 速水健朗 (原書房) »

2010年07月18日

『電子図書館』 長尾真 (岩波書店)

電子図書館 →bookwebで購入

 現在の国会図書館館長長尾真氏が1994年に上梓した本の新装版である。発刊当時はまったく話題にならなかったが、昨年あたりから長尾構想がらみで注目されるようになり復刊が待たれていた。

 長尾構想とは2008年4月の日本出版学会の講演で明らかにされたもので、公共図書館が有償でデジタル図書の貸出をおこなうとする提案である(本書の「新装版にあたって」に略述されている)。私案とはいえ国会図書館館長という立場の人の発言だけに図書館関係者や出版関係者、電子アーカイブの関係者の間で大きな反響を呼んだ。

 複写権センターのようなNPOを介するとはいえ公共図書館が購読料を徴収するという大胆なビジネスプランに当初は反発一色だったが、Google騒動を期に流れが変わり長尾構想でGoogleに対抗しようという声まで出はじめている。

 今回はじめて読んだが、16年前にこれだけの構想を発表していた先駆性に驚かされたものの、話題にならなかったのもわかる気がした。日本で個人がインターネットに接続できるようになったのは本書が出版される前年のことで、一般にはまったくなじみがなかった。当時読んでいたとしたら、Xanaduと同じ絵に描いた餅としか受けとならなかったと思う。刊行が数年遅れていたらもっと評判になっていたかもしれない。

 時代を先取りしている面がある一方、アポロ後に一昔前の月SFを読んだ時のようなアナクロニズムも感じないではない。MOSAICやgopherといったなつかしい言葉と再会したこともあるが、正しい予見もあれば見誤りもあるのである。

 著者が見誤った最大のものは検索エンジンの可能性だろう。全文検索サービスは当時すでに存在していたが、ほとんど使いものにならなかったから評価しないのも無理はない。検索エンジが使えるようになったのはGoogle以後なのである。

 Googleが検索精度を飛躍的に高めることに成功したのはWebページの格づけに集合知を導入したことによる。本書には集合知の概念はなく、目次を検索対象にしろとか、司書が情報のガイド役をつとめるなどと書いてある。ネット情報より司書の方が信頼できるような書きぶりだが、そんなバカな話はない。まったく不案内な分野なら司書も役に立つかもしれないが、ちょっと専門的な問題になるとまるで使えない。国会図書館のリファレンスもそうである。ギンガリッチの本によると欧米にはすごい司書がいるらしいが、日本ではそういう司書には出会ったことがない。ネット情報の方がはるかに役に立つ。

 著者は「新装版にあたって」でも検索エンジンとネット情報には低い評価しかあたえていない。このあたりが限界なのだろうか。

→bookwebで購入

トラックバックURL

このエントリーのトラックバックURL:
http://booklog.kinokuniya.co.jp/mt-tb.cgi/3863