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2010年07月11日

『iPad vs. キンドル』 西田宗千佳 (エンターブレイン)

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 iPad騒動をきっかけに日本でも電子書籍が改めて注目されるようになり、関連本が雨後の筍のように出版されている。

 電子書籍には大蔵経や四庫全書のような人類の遺産をデジタル時代にどう継承するかとか、紙の本から疎外されていたさまざまな障害をもった人たちにどう知識を届けるかといった大きな問題があるのに、どの本もハードウェアの紹介と書籍流通の話に終始しているのは残念だが、電子書籍を受けいれる段階にようやく達したことを考えれば仕方のないことなのかもしれない。

 さて本書であるが、わたしが読んだ六冊の中では抜群の出来だった。電子書籍の本を一冊だけ読みたいというなら躊躇なく本書を推薦する。内容がハードウェアと書籍流通に限られているのは他の本と同じだが、本書は直接取材して書いているだけにリアリティが違うのである(類書にはネット情報を切り貼りしただけのようなものがすくなくない)。

 本書はまずアマゾンのKindleをとりあげるが、Kindleの3年前にKindleとほぼ同等のハードウェアを日本で発売しながら失敗したソニーのLIBRIéと対比しながら話を進めているので、Kindleの成功の理由がよくわかる。

 ソニーは日本でのビジネスの先が見えるとアメリカに転進し再起をはかるが、当事者に聞いているだけに悔しさが伝わってくる。

 次はiPadだが、ジョブズ自身のデモを紹介してアップルの狙いは単なる電子書籍端末ではなく、リビング用端末だと指摘する。なるほど、なるほど。

 第三章は Expand Book 以来の電子書籍の歴史、第四章はアメリカでの電子書籍市場の実態を紹介し、いよいよ最後の章で日本に押し寄せている電子書籍の波の実態が語られるが、業界の入り組んだ利害関係を考えると頭が痛くなる。

 歴史的な流れを踏まえたバランスのとれた記述であり、電子図書館の長尾構想まで視野におさめている点は特筆したいが、ひとつ気になったことがある。ソニーは電子書籍のフォーマットとして世界標準になりつつあるEPUBに早い段階から注目し普及を後押ししていたという条だ。

 それが事実なら、ソニーはなぜAdobeをせっついてEPUBの規格に縦書とルビを押しこんでおかったのだろう。日本市場への捲土重来を期すなら真っ先にやっておかなければならなかったことではないか。著者にはその点を突っこんでもらいたかった。

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