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2010年04月29日

『日本人になった祖先たち』 篠田謙一 (NHKブックス)

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 母系で伝えられるミトコンドリアDNAで日本人の成り立ちをさぐろうという本である。

 この分野ではブライアン・サイクスの『イブの七人の娘』というベストセラーがあるが名著があるが、ヨーロッパ人に多い七つの変異型ハプロタイプしかとりあげておらず、日本人を含む東アジアに多いハプロタイプは付録で言及されるだけだった。英国の人類学者が英国の読者のために書いた本だから当たり前といえば当たり前だが。

 本書は日本の人類学者による日本人のミトコンドリア・ハプロタイプを考察した本で、十章にわかれる。第一章から第四章まではミトコンドリアDNAと人類遺伝学の解説だが、自信のなさそうな書き方でおもしろくない。オッペンハイマーの『人類の足跡10万年全史』あたりを読んだ方がいい。

 第五章は日本人に見られる12のハプロタイプの紹介で、それぞれの分布からそのハプロタイプが生まれたと推定される地域と年代を推定している。サイクスの本ではハプロタイプをもった最初の女性に名前をつけ、境遇を小説仕立てで語っていたが、本書はそこまでの洒落っ気はなく、地味な科学解説書のスタイルである。

 第六章から第八章まではミトコンドリア・ハプロタイプから日本人の重層的な成り立ちを考察しており、本書の中心部分である。著者は古人骨のDNA解析を手がけている人なので、古人骨関係の記述が充実している。第九章はミトコンドリアDNAが母系の系譜であるのに対し、父系の系譜であるY染色体からみた日本人の起源をあつかう。第十章はまとめである。

 日本人の起源については旧石器時代に南から島伝いに日本列島にはいってきて定着した縄文人を基層に、朝鮮半島から稲作文化をもって弥生人が侵入してきて、徐々に混血して現代日本人が成立したという二重構造モデルがほぼ定説となっていた。弥生人は数十万人規模ではいってきたので縄文人は南北の辺境や山間部に追いやられ、言語も弥生系に変わったという説もあった。琉球人とアイヌ人は縄文人の直系で同根という見方も有力だった。

 ミトコンドリアDNAでも縄文人と弥生人という二系統は確認されたが、従来の説をくつがえす発見もあった。縄文人は南方から北上してきた東南アジア系の人々とされてきたが、ミトコンドリアDNAの解析によれば縄文人は複数のルーツを持ち、南から来た人々少数派で、多数派は東北アジア系の人々だったことがわかった。

 縄文人が朝鮮半島南部に進出していたことも判明した。縄文人と同じDNAをもつ人は現代でも朝鮮半島南部にすくなからずいるのである。弥生人の渡来前から北九州と朝鮮半島南端は共通の文化圏だったらしい。

 ミトコンドリアDNAで見る限り、従来考えられていたよりも弥生人の影響は限定的で、縄文人を引きついでいる人が多いことがわかったが、これは弥生人侵略説を否定するものではない。ミトコンドリアDNAは母系でのみ伝えられるので、男ばかりの弥生人集団が土着の縄文人の女性に子供を産ませても同じ結果になるからである。実際、アメリカ大陸の先住民の場合、ミトコンドリアDNAはアメリカ系のままだが、Y染色体はヨーロッパ系が圧倒的だという。

 弥生人が暴力的にはいりこんできたのかどうかは父系で伝わるY染色体を見なければわからない。結果は縄文人と目されるY染色体が効率で存在していることがわかった。弥生人は平和裡に定着したらしい(崎谷満『新日本人の起源』と中堀豊『Y染色体からみた日本人』により詳しい記述がある)。

 日本国内のサンプル数は決して十分とはいえず、日本周辺の少数民族にいたっては調査の空白が多いということだから、これで確定ではないが、ミトコンドリアDNAによって明らかになったことは予想以上に多い。今後の研究が期待される。

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