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2009年10月29日

『野蛮人のテーブルマナー』 佐藤優 (講談社)
『「諜報的生活」の技術』 佐藤優 (講談社)

野蛮人のテーブルマナー
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「諜報的生活」の技術
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 昨年8月に休刊した若者向け雑誌「KING」の連載を二冊にまとめた本である。佐藤優氏は右から左まで来るものは拒まずで仕事を引き受けていると聞くが、こんな軟らかい雑誌にまで書いていたのである。

 中味であるが、エッセイの回と座談の回がある。エッセイの回は女にもてるにはどうしたらいいかとか、ビジネスで出し抜くにはという切口で味つけがしてあるが、大体が二番煎じ、三番煎じである。ネタの使い回しだが、「KING」の読者にとってははじめて読む話だったはずで、若者への啓蒙は日本の国益にかなったことだろう。

 『野蛮人のテーブルマナー』だが、エッセイは時間の無駄でも座談は面白い。

 まず「AV業界に学ぶ組織論」。対談相手は連載の仕掛人の小峯隆生氏だが、意外に深いことをかたりあっている。AV嬢は賞味期限一年で入れ換わっているが、入れ換わることがAV嬢本人にとっても、AV業界にとってもプラスなのだという。一人のAV嬢が不世出のスターになると癌細胞化してしまい、AV業界を駄目にしてしまう。これは官僚機構にもいえて、アメリカの大統領制は官僚機構が癌細胞化するのを防ぐ仕組なのだそうである。

 鈴木宗男氏との「外交は究極のビジネススクール」という対談では次の発言が面白かった。

佐藤 終身雇用のよかった点は、年功序列だから組織として生き残るという発想があった。しかし、新自由主義の下ではチームとして強くなったら自分が楽になるという発想がないから、後輩を育成することもしない。後輩を育てればライバルとなり自分の身が危うくなる、と考えてしまう。さらには自分を守るには、他の社員の足を引っ張ればいい、となってしまう。

 河合洋一郎との対談ではCIA設立に係わった人物を主人公にした映画『グッド・シェパード』を俎上にのせているが、主人公の息子がピッグス湾の情報を漏らしたというのは目くらましだという情報のプロならではの見方を披露している。

 『「諜報的生活」の技術』のエッセイ部分は体系的に書こうとしていて、前著よりはいい。Osint(文書諜報)を解説した回では鈴木琢磨氏の『テポドンを抱いた金正日』を文書諜報の傑作と賞賛している。

 連載の最終回では組織が駄目になった時の徴候が具体的に書かれている。電話が鳴っても誰もとらなくなり、電話をとっても官職や氏名を名乗らなくなるのだそうである。もしかしたら休刊間際の「KING」編集部のことを暗に言っているのかもしれない。

 こちらの座談部分では鈴木宗男・田中森一・筆坂秀世という脛に傷をもつ大物が顔をそろえた座談会が豪華である。佐藤氏は筆坂事件は共産党が階級政党から国民政党へ脱皮する過程で起きたと分析する。簡単にいうと労働者たたきあげの幹部が新世代の党官僚には鬱陶しかったわけである。

 裁判官は法廷の供述より検事調書の方を高く評価するそうだが、そんなことになっているのは日本人は人前では本音を言わず、密室でなら本当のことを喋るというコンセンサスが法曹界にあるからなのだそうである。

 本書で一番読みごたえがあったのは村上正邦との対談である。村上氏はKDD事件で「国策捜査」の対象となり、74歳にして実刑判決を受けたが、逮捕前に議員辞職をしたために検事はやりたい放題だったそうである。『国家の罠』では担当検事は紳士的にふるまっていたが、あれは佐藤氏が休職中の国家公務員だったかだ、無位無官の人間に対しては検事は無礼かつ卑劣になるのだそうだ。

 筆坂氏との「歴史の見方が変わる諜報的読書術」では『蟹工船』をとりあげていて、若者に受けていそうな部分が具体的に指摘されているが、わたしにはどこがおもしろいのかわからない。この対談で面白かったのは日本共産党が共産主義社会は「21世紀の早い時期」に実現すると宣伝していることに対する以下のコメントだ。

筆坂 不破哲三さんが僕に言ったことがありますよ。「21世紀の早い時期」だから「まだ50年ある」とね(笑)。

 AV女優の夏目ナナとの対談では厳格なワッハーブ派を国教とするサウジアラビアの王族が買春できるからくりを解説した部分が面白かった。イスラムでは妻は四人もてるが、あえて三人だけにしておいて、四人目は売春婦と「時間結婚」するのだそうである。

 『国家の崩壊』で理論的に語られていた「ユーラシア主義」について「世界帝国はあきらめ、ヨーロッパと手を結んだ地域帝国を目指すこと」とAV女優にもわかるようにまとめていた。

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