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2009年10月17日

『雑巾と宝石』 手塚治虫 (講談社)

雑巾と宝石 →bookwebで購入

 先日、名画座で「襤褸と宝石」という1936年のハリウッド映画を見た。自尊心に振りまわされる男女をコミカルに描いた痛快なコメディで、すっかりファンになってしまった。

 書店の手塚治虫コーナーを物色していると、どこかで見たようなタイトルを見つけた。本書、『雑巾と宝石』である。表紙が洋画っぽいし、ひょっとしたら『襤褸と宝石』の漫画化か。セロファンで中味がわからなかったが、とにかく買ってみることにした。

 読んでみると――1955年から1969年にかけてサラリーマン向け週刊誌に掲載された作品を集めた短編集だった。「あとがき」によると、表題作の「雑巾と宝石」は確かに『襤褸と宝石』の原作小説にあやかったものだったが、手塚が興味をもったのは邦題の「襤褸」と「宝石」という対比だけで、中味はまったくの別物だったのである。

 表題作の「雑巾」はヒロインの地味なOL、「宝石」は男前のスター俳優をあらわしている。普通だったら出会うはずのない二人が交通事故で出会うわけだが、自動車に頭をぶつけると醜女が美人に変わり、男前の俳優が醜男に変わるという設定で行き違いのコメディになっている。美醜にこだわる世間をからかった風刺的な作品である。

 1957年の連載で、手塚としてははじめての「ヤングもの」である。続編を依頼されるほど人気があったそうだが、今読んでどうだろうか。

 表題作以外の感想も簡単に書いておく。

「第三帝国の崩壊」

 1955年に「漫画読本」に発表。「モダンタイムス」風の独裁者風刺漫画。コマ割を使わない実験的な手法が見どころか。

「昆虫少女の放浪記」

 1955年に「漫画読本」に発表。アリに体液を吸わせて共存するアリマキの少女を売春婦に見立て、売春防止法とからめた風刺漫画。

「スター・ダスト」

 1965年に「漫画読本」に発表。UFOが排泄物を地球に落としていくが、その中から宝石が見つかるという星新一にありそうな話。

「日付健忘線」

 1967年に「漫画読本」に発表。国境にこだわる大人をからかった風刺漫画。小島功のお色気マンガをかなり意識している。

「アポロはなぜ酔っ払ったか」

 1969年に「漫画読本」に発表。これも小島功風の色っぽい絵である。奈良林ならぬ奈良森先生に人生相談するという趣向で、ホステスに振りまわされた男の悲哀を描く。

「われ泣きぬれて島と」

 1966年に「漫画読本」に発表。船から身投げした男が絶海の孤島に漂着して生きのびる話に水爆実験をからめている。初期のモンキーパンチの絵柄に似ている。

「やぶれかぶれ」

 1966年に「漫画サンデー」に発表。絶対に墜落しない飛行機を作ったら着陸もできなくなっていた。それをどう着陸させるかに、女性をどう落とすかをからめたギャグ漫画。

「怪談雪隠館」

 1969年に「漫画サンデー」に発表。手塚本人がカンヅメになるために山奥の旅館に泊まるが、そこはアダムス・ファミリーのような化物家族が経営する宿だったというオチ。

 こんな作品まで描いていたのかという驚きがある。劇画誕生以前の大人向け漫画がどんなものだったか知りたい人には貴重な作品集だろう。

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