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2008年08月26日

『カンブリア爆発の謎』 宇佐見義之 (技術評論社)

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 カンブリア紀は長らく三葉虫の時代と考えられていたが、通常化石にならない軟組織をもった生物が化石になったバージェス頁岩の発見で、多種多様な生物が一挙に出現し、進化の実験室の様相を呈していたことが明らかになった。これをカンブリア爆発という。

 その後、バージェス頁岩と同じような軟組織の化石が世界各地で見つかるようになった。グリーンランドのシリウス・パセットと中国雲南省の澄江ではまとまって出土したが、中でも澄江の化石は量とカバーする年代の長さでバージェス頁岩をはるかに凌駕した。本書は澄江を中心に、カンブリア爆発の最新の研究成果を紹介した本である。

 著者の宇佐見義之氏はもともとは古生物畑ではなく、コンピュータ・シミュレーションを研究していたが、アノマロカリスの遊泳をシミュレートしたのを機にカンブリア爆発を研究するようになったという。コンピュータで復元したアノマロカリスの泳ぐ姿は著者が開いている「インターネット自然史博物館」で見ることができる。

 澄江の化石はバージェスよりも1500~2000万年古く、カンブリア紀の地理では古太平洋パンサラッサをはさんで5000キロ以上隔たっていた。5000キロといえば、東京からハワイの手前あたりだし、1500~2000万年前といえば人間とオランウータンが共通祖先からわかれた頃にあたる。地理的にも時代的にもそんなに離れているのに、生物には共通するものが多いというのは興味深い。バージェス動物群は特殊な生物ではなく、カンブリア紀にごく普通に見られる生物だったということだろう。

 本書は澄江で発見された奇妙な生物を復元図つきで紹介している。アノマロカリスだけでも五種類いて、ながめているだけでも楽しい。ただし、化石の図版は多くない(化石を見たい人には『澄江生物群化石図譜』という本が出ている)。

 アノマロカリスは脚がなく、脇腹の鰭をひらひらさせて泳いでいたと考えられてきたが、澄江では脚をもったアノマロカリスが発見された。アノマロカリス・サーロンとパラベイトイア・ユンナネンシスである。

 ここで注目したいのは、最後の章で披露されるアノマロカリスの遊泳法のシミュレーション結果で、ヒレの長さが7cmを越えると遊泳能力が突然向上するというのだ。それが正しいなら、初期のアノマロカリスは海底を歩いたり泳いだりしていたが、だんだん巨大化してヒレの長さが7cmを越えたところで泳ぎ中心になり、脚が退化していったということになるだろうか。

 しかし、澄江最大の発見はミロクンミンギアという魚が発見されたことだろう。魚の誕生はオルドビス紀とされていたが、それが一気に5000万年も遡ったのである。グールドは『ワンダフル・ライフ』で、バージェスで発見されたピカイアという原始的な脊索動物をわれわれの先祖と紹介したが、直系の先祖である原始的な魚類が確認された以上、ピカイアは傍流にすぎなかったことになる。

 グールドはバージェス動物群を現存の動物の分類体系には含まれないまったく新しい門に属し、子孫を残すことなく滅んだと主張して衝撃をあたえたが、その後、サイモン・コンウェイ・モリスの『カンブリア紀の怪物たち』などで反論が出された。シリウス・パセットや澄江で新たに見つかった化石の研究によって、バージェスの奇妙奇天烈な動物群は節足動物の近縁にあたるという見方が有力になっているようだ。本書もその見方をとっていて、脚を中心に節足動物との関係を論じているが、この部分は記述が錯綜している。現在進行中の分野だけに、まだ結論を出せる段階ではないのかもしれないが。

 最後になったが、「インターネット自然史博物館」では本書の正誤表が公開されていることを申しそえておく。

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