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2008年05月31日

『私は「毛主席の小戦士」だった』 石平 (飛鳥新社)

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 『売国奴』の三氏のうち、黄文雄氏と呉善花氏の本は読んでいたが、石平氏の本は読んだことがなかったので本書を読んでみた。

 本書は表題からわかるように、中国共産党からの訣別を語った自伝であるが、日本に来たから訣別したわけではなかった。毛沢東思想からの脱却は19歳で故郷の四川省を離れ、北京大学に入学した時におこなわれた。

 石平氏が北京大学に入学したのは改革解放政策が本格化した1980年のことである。

 石平氏は1962年の生まれであり、文革期に少年時代をすごした。当然、共産主義教育をたたきこまれ、「毛主席の小戦士」たろうとした。

 ところが1978年に鄧小平が全権を掌握すると、文革批判がはじまり、隠された事実が次々と暴かれていった。その中心となったのが北京大学だった。北京大学には毛沢東と四人組によって打倒され、拷問され、集会で辱めを受けた高級幹部の子弟が集まっていたからだ。

 彼らは当然、この暴露・批判運動のリーダー役となったが、何よりも重要だったのは、かつて共産党政権の中枢と知識界の中心に身をおいた彼らだったこそ知り得た、毛沢東政治の内幕と深層が、次から次へと暴かれたことである。
 そして、それらの一連の暴露と批判派、地方から北京大学にやってきた私のような田舎育ちの者にとって、かつて「毛主席の小戦士」であったこの自分にとって、まさに驚天動地の連続であった。

 地方出身で、素朴に毛沢東を信じていた著者がどれだけ精神的打撃を受けたかは想像にあまりある。著者は学生寮で同じ精神的打撃を受けた仲間たちと涙を流しながら議論しあった。その苦しみの中から、民主化運動の理念がしだいに固まっていった。それは単に毛沢東を否定するのみならず、共産主義の金科玉条であるプロレタリア独裁の否定に先鋭化した。

 暴君としての毛沢東は、確かに悪だが、毛沢東という暴君を生み出し、その恣意的な権力乱用を可能にした共産党の一党独裁体制は、さらに悪、ということになる。
 だとすれば、毛沢東のような暴君が、二度と現れてこないようにするためにも、国家と人民が、二度と生き地獄に陥ることがないようにするためにも、こうした一党独裁の政治体制を打破し、国家の法制を整備し、人民に民主主義的権利を与えなければならない。
 それがすなわち、私たちの世代の若者たちが、心から信じた政治改革の目的であり、民主化運動の理念であった。

 中国の民主化運動がここまでつきつめたものだったとは、不勉強にして知らなかった。よく言われる欧米の影響といったものでは必ずしもなく、文革の深刻な反省から生まれたものだったらしい。

 もちろん、こんな運動を中国共産党が許すはずはない。毛主席は誤りをおかしたが、罪よりも功績の方が大きいというのが共産党の公式見解である。

 石平氏は大学卒業後、四川にもどって大学の助手となり、学生に対して民主化運動の啓蒙活動をはじめるが、大学当局から厳しい警告を受ける。さらに追い打ちをかけるように、1987年に胡耀邦が失脚する。

 天の配剤というべきか、石平氏は友人の引きで1988年に日本に留学するが、日本に来た翌年、天安門事件が起こる。

 石平氏は純朴な人柄らしく、読んでいて痛々しくなるが、救いは革命と文革で失われた中国の古典文化を日本に発見したことである。

 石平氏は成都の生まれだが、大学の教員をしていた両親が文革で下放されたために田舎の祖父の家に引きとられ、そこで小学校に通った。

 祖父は名医といわれた漢方医だったので紅衛兵の迫害を受けずにすんだが、孫である石平氏に秘かに本を暗記させた。意味を教えず、ただただ文章を書きとらせるだけだったが、そんな勉強をしていることは決して口外しないようにと厳命され、文章を書きとった紙は深夜、こっそり燃やすという念のいりようだった。

 石平氏は日本に来て、祖父が暗記させた文章が何だったかを知る。それは『論語』だった。そして、日本の書店の棚には『論語』に関する本がたくさんならび、中国人が弊履のように投げ棄てた「礼」が日本に残っていたことに気がつく。

 石平氏の日本文化開眼の条は感動的だが、こそばゆくもある。そんなに理想化してもらっては困るというのが正直な感想だが、中国の人々の喪失感がそれだけ深いということなのだろう。中国は遠藤誉氏が描きだした「大地のトラウマ」のようなことを半世紀にわたってつづけた。人心が殺伐とするのは当然である。共産主義という思想はどうしようもない。

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