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2007年11月30日

『光速より速い光』 マゲイジョ (NHK出版)

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 最近の宇宙論の本ではインフレーション理論はビッグバン理論同様、確定的な事実であるかのように書かれている。ビッグバン理論はインフレーション理論と一体化している。ビッグバン理論には遠方の銀河ほど赤方変移が大きいという物証があるが、宇宙の背景輻射の驚くべき均一性までは説明できないので、インフレーション理論とこみで語られるわけだ。

 しかし宇宙が超光速で膨張していくインフレーションを認めてしまうと、なんでもありになりかねない。その先にあるのは『宇宙のランドスケープ』や『多世界宇宙の探検』で語られているような、無数の平行宇宙を生みだす永久インフレーション説だ。

 本書の著者、マゲイジョはインフレーション理論を否定する数少ない研究者であるが、宇宙の均質性は、超高速で膨張したとするインフレーションを考えなくとも解決できるとしている。

 マゲイジョの解答はコロンブスの卵だ。宇宙誕生間もない頃は光の速度が今よりも桁違いに速かったと考えるのである。光速が速ければ、宇宙全体が均質化するというわけだ。これを「光速変動(VSL, Varying Speed of Light)理論」と呼ぶ。

 光速度一定の原理をくつがえすとは大胆な仮説だが、アインシュタインも一般相対性理論を研究している途中段階で光速度変動の可能性を検討していたそうだし、他にも先例はあるという。

 VSL理論は「科学的取り調べの真っ最中」とマゲイジョが認めるように、まだ広く認められたわけではないが、インフレーション理論に批判的な研究者がすくなくない英国では一定の注目を集めているそうである。VSL理論が正しければ、「宇宙のひも」と呼ばれる領域では今でも光速度が速いというから、SF作家にとっては朗報だ。

 本書は前半でVSL理論のあらましを述べるが、後半では定説をくつがえす仮説を世に出すまでのゴタゴタと、その後の反響を語っている。VSL理論もさることながら、このゴタゴタがおもしろい。マゲイジョの才筆というか、毒舌の才能は冴えに冴えている。

 マゲイジョはポルトガル人だが、ケンブリッジ大学留学以降、英国で研究をつづけている。ケンブリッジ大学はクレージーな発想を求められる「快適な精神病院」である一方、芝生にはいれるのはフェローだけとか、フェローは今でも一段高いハイテーブルで食事をとるといった中世以来の伝統を残しているそうである。

 VSL理論が単なる突飛な一仮説で終わってしまうのかどうかはわからないが、インフレーション理論を批判的に解説した部分は出色の出来だと思う。

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