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2007年07月31日

『スノーボール・アース』 ガブリエル・ウォーカー (早川書房)

スノーボール・アース →bookwebで購入

 スノーボール仮説とは先カンブリア代に地球が極度に寒冷化し、赤道地帯もふくめて地表すべてが数千メートルの氷におおわれるようなことがすくなくとも一度、最多で四度あったとする仮説で、日本語では「全地球凍結」という。2004年にNHKが放映した「地球大進化」で紹介されたので、ご存知の方も多いだろう。

 スノーボール仮説は学会で大論争をまきおこした。地球全体が凍りついていたというだけでもセンセーショナルだが、気候史だけでなく、地球化学、生物学にまで広がりをもっていたからだ。特に多細胞生物の出現と、それにつづく「カンブリア爆発」が最後のスノーボール期が終わり、温暖化に向かう過程で起きたという仮説は重大である。スノーボール仮説はウェーゲナーの大陸移動説のように、地球と生物進化の歴史を根本から書きかえる壮大な仮説なのである。

 本書はサイエンスライターのガブリエル・ウォーカーが、スノーボール仮説の立役者であるポール・ホフマンを主人公に仮説の誕生から論争までを追った本である。先カンブリア代の研究者は数がすくなく、ほとんどが顔見知りという狭い業界なので、その中での論争は熾烈をきわめる。著者はホフマンを格好良く描いているが、川上紳一氏の解説によると自信過剰で、あくの強い人物のようである。

 発端はアフリカのナミビア砂漠の堆積岩中の種々雑多な岩石だった。色も形も大きさも起源も異なる岩石が灰色の堆積岩の中に埋めこまれているのだ。ホフマンは氷河が運んできたと考えれば説明がつくことに気がつく。そしてあらためて見直すと、ナミビアの先カンブリア代後期の地層には氷河の痕跡がさまざま見つかった。

 氷河に覆われていたと考えれば説明がついたが、問題は当時のナミビアは赤道付近だったことだ。赤道地帯が氷河に覆われていたとしたなら、地球全体が凍りついていたことにならないか。

 赤道付近が凍っていたという説はカリフォルニア工科大で地磁気を研究しているジョー・カーシュヴィンクがすでに発表していた。

 そのアイデアはカーシュヴィンクのオリジナルではなく、査読を依頼された論文中で見つけたものだった。必要な証明の手続を怠っていたので、論文は掲載されなかったが、赤道付近の石が氷河に運ばれたというアイデアはカーシュヴィクの頭の中で成長していき、先カンブリア代末期に鉄鉱石の形成がふたたび見られるという謎の解明につながった。

 地球の大気に酸素がなかった時代、海水中には大量の鉄分がとけこんでいた。先カンブリア代中期になりシアノバクテリアが酸素が放出しはじめると、海水中の鉄は酸化されて海底に堆積していき、鉄鉱石の鉱脈となった。ところが、鉄鉱石の形成は一度中断してから、先カンブリア代末期にまた盛んになるのである。

 カーシュヴィクが考えた説明はこうだ。海が全面的に氷結し大気から遮断される期間が数千万年つづけば、その間に海底火山から大量の鉄分がとけだし、氷が溶けてから一気に酸化されて堆積する……。

 地質学者のダン・シュラグによって炭酸塩岩という証拠が追加される。スノーボールの間、光合成はおこなわれないので大気中には火山の放出した二酸化炭素が蓄積していく。二酸化炭素濃度が高まると、一気に温暖化が進み氷がとけだす。二酸化炭素濃度が高いので、雨は酸性雨となって降りそそぎ、大量の炭酸塩が海に流れこんで堆積する。事実、先カンブリア代末期には氷河堆積物の上に炭酸塩の層が形成されていたのである。

 スノーボール仮説はさらに多細胞生物の起源にも拡大されるが、ここで難問にぶつかる。先カンブリア代の終わりにエディアカラ動物群と呼ばれる最初の多細胞生物が出現するが、最後のスノーボール期の終わりとエディアカラ動物群の最古の痕跡の間には2500万年という時間が横たわっていたのである。

 いくら地質学的スケールとはいえ、2500万年のズレは無視できない。たとえば現在から2500万年前は最初の類人猿があらわれた頃にあたり、ヒマラヤ山脈はまだ影も形もなかった。

 また、多様な真核生物が生き残ったという事実もスノーボール仮説では説明しにくい。

 NHKの「地球大進化」を見た時はこれで決まりと思ったが、スノーボール仮説はまだ仮説の段階のようである。興味のある方はsnowballearth.orgというスノーボール仮説の伝道サイトを御覧になられるとよい。

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