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2007年03月30日

『言語のレシピ』 ベイカー (岩波書店)

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 明治以来、日本人は日本語を特殊な言語と思いこんできたが、日本語が特殊だというのは欧米の言語や中国語と比較するからであって、世界的に見れば決して特殊というわけではない。

 本書は文の作り方という視点からまとめた言語類型論だが、現存する6000の言語のうち、英語のような語順の言語(主語-動詞-目的語)と日本語のような語順の言語(主語-目的語-動詞)はほぼ同数で、それぞれ2500ほどあるという。本書では「主語-動詞-目的語」型の言語を「主要部先行言語」、「主語-目的語-動詞」型の言語を「主要部後続言語」と呼び、英語と日本語で代表させている。日本語は特殊どころか、二大類型の一方を代表する言語なのだ。

 三番目に多いのは「動詞-主語-目的語」型の言語で、ウェールズ語、中米のサポテック語など600ほどある。以下、「動詞-目的語-主語」型、「目的語-主語-動詞」型がつづくが、「目的語-主語-動詞」という型の言語は、現在確認されている限りでは一つしかないという。

 9割近い言語が二大類型のどちらか含まれ、一部の類型はほとんど存在しないに等しいという事実は、言語は多種多様なようでいて、文の作り方という点ではごく限られたルールしかないことを暗示するものだろう。

 類型の内部でも、使えるルールは限られている。英語型言語の場合、助動詞は動詞に先行するが、日本語型言語の場合、助動詞は動詞の後ろに置かれる。副詞句の内部では英語型は前置詞(for,in,toなど)が先行するのに対し、日本語型では助詞(後置詞)が後続する(~へ、~で、~に、など)。英語型なのに助動詞が動詞の後ろにきたり、日本語型なのに前置詞のある言語はないのだ。

 こうしたルールを著者はチョムスキーにならってパラメータと呼んでいる。料理の比喩でいえば、クッキーもパンも、小麦粉を水で練って、オーブンで焼くところまでは同じだが、パンの場合、イースト菌を混ぜるというパラメータが追加される。イースト菌パラメータの違いだけで、クッキーかパンかという大きな違いが生まれるというわけだ。

 著者はさまざまな言語をとりあげてパラメータを洗いだしていき、さらにパラメータ間の関係にまで踏みこんでいる。赤ん坊が言語を習得していく過程をパラメータの階層構造で説明するくだりなど、かなり説得力がある。最後の章ではパラメータが人間の脳に先天的に組みこまれている可能性を検討しているが、必ずしもチョムスキー一辺倒にはなっておらず、他の可能性も排除していない。

 本書の大胆なアプローチは、もちろん、生成文法が出発点となっているが、個々のパラメータは具体的な要素間の関係のみをあつかっており、生成文法でいう深層構造を前提とはしていないと思う。本書の成果を生成文法とは別のアプローチで再構成することは不可能ではあるまい。わたしの勝手な妄想だが、主語廃止論の見地から本書を再構成したらおもしろいと思う。

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