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2006年11月29日

『情報進化論』 大矢雅則 (岩波書店)

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 題名から情報の進化を論じた本と思う人がいるかもしれないが、本書は生物進化を情報理論の視点から再検討した野心的な本である。

 進化論と情報理論はなぜ結びつくのだろうか? 進化はDNAに書きこまれた遺伝情報の変化で起こる。遺伝情報が正しく受け継がれるかどうかは通信経路のノイズの問題の延長としてあつかえるし、種と種の間の遺伝的距離は符号の置換率という形で定量化できる。進化論はまさに情報理論の対象なのだ。

 しかし、進化や遺伝情報を研究している生物学者に情報理論をきちんと理解している人がすくなかったという。もともと情報理論の研究者だった著者があえて生物畑に進出した所以である。本書の執筆意図には生物学者や生物学に興味を持つ人に正しい情報理論を伝えたいという啓蒙的動機が大きいらしく、第二章と第四章はシャノンの情報理論と符号化理論の解説にあてられている。

 進化というと何十万年単位の気の長い話と考えられがちだが、著者は数週間単位で遺伝子の変異が起きるエイズ・ウィルスの研究もしている。エイズ・ウィルスは患者の体内でどんどん変異を繰りかえしていくが、発症する場合と発症しない場合の差はウィルスの符号構造の差にあるという。発症の予測に情報理論が使える可能性があるというのはおもしろい。

 最後の章で著者は情報力学という新しい手法を提唱しているが、素人にはさっぱりわからなかった。しかし、新しい学問が動きだしている予感は伝わってきて、きわめて刺激的である。

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