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2006年09月28日

『ベータ2のバラッド』 ディレイニー (国書刊行会)

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 若島正氏の編纂したニューウェーブSFのアンソロジーで、6編中4編が本邦初訳である。既訳2編はニューウェーブ紹介に尽力した伊藤典夫氏と浅倉久志氏の手になるもので、先達に仁義を切ったというところか。

 6編中5編はおもしろく充実したアンソロジーだと思うが、書評の対象とするとなると困ってしまう。表題作の「ベータ2のバラッド」が駄作なのである。

 「ベータ2のバラッド」は『千の太陽の都』三部作の後に書かれたディレイニー23歳の時の中編で、俗謡の謎解きという趣向が翌年書かれた傑作『バベル17』につながるといえないことはないが、どうにも褒めようのない凡作である。

 学生時代英語で読みさっぱりおもしろくなかったので英語力が足りないのかと不安に思ったが、今回日本語で読んでやはりゴミだと確認できたのは収穫だった。

(ついでながら『千の太陽の都』三部作がいまだに未訳であることを知った。某S社が版権をとり、伊藤氏が担当されていると聞いたのは30年前だったか。)

 キース・ロバーツの「降誕祭前夜」はロバーツ得意の歴史改変もので、こちらの英国ではチャーチル政権が労働者の暴動で倒れて親ナチ政権が成立し、ドイツと連合帝国を形成している。世紀の恋で退位したエドワード八世の統治(再即位?)がつづいているなど、にやりとさせる記述が随所にある。主人公は英国とナチス・ドイツの連絡担当大臣の秘書官だが、自由戦線というレジスタンス運動にはめられ、どんでん返しにつぐどんでん返しで結末になだれこんでいく。

 ハーラン・エリスンの「プリティ・マギー・マネーアイズ」はスロットマシンをやっている最中に突然死した娼婦の霊がスロットマシンにとりつき、ホームレスの男に大当たりさせるという人情噺をニューウェーブ調というかアメコミ風の文体で書いた佳作。

 ニューウェーブは前衛文学の影響を受けているといわれていたが、アメリカの作品に関する限りテーマ的にもスタイル的にもアメコミの影響を濃厚に感じる。そもそもディレイニー以外のアメリカのニューウェーブ系の作家は前衛文学なんか読んでいなかったのではないか。

 リチャード・カウパーの「ハートフォード手稿」は正統的英国SFの傑作だが、ブッキッシュな趣向がニューウェーブ的といえないことはない。主人公は古書商をいとなんでいた大伯母から17世紀の古文書を相続するが、その一部に時間旅行者が書いたとおぼしい手稿が綴じこまれていたという設定である。それだけだったらどうということはないが、手稿の筆者がウェルズの『タイムマシン』の主人公のモデルとなった人物だったという仕掛けが卓抜だ。

 モーロック族のもとから逃れる際、時間旅行の駆動装置となる水晶が破損したために17世紀に不時着する。タイムマシンを修理するためにロンドンに出るが、大火災前のペストが猖獗を極めている時期にぶつかってしまう。

 『タイムマシン』の主人公にモデルがいたというのはおそらくカウパーの創作だが、『タイムマシン』の初稿である「時の探検者たち」を持ちだしたことで俄然リアリティが生まれている。

 本書の最後におさめられているのはその「時の探検者たち」である。『タイムマシン』は1895年刊行だが、「時の探検者たち」はその7年前の1888年に当時ウェルズが勤めていた学校の学内誌「サイエンス・スクール・ジャーナル」に発表されている。

 意外なことに「時の探検者たち」は『タイムマシン』とは似ても似つかぬホラー小説だった。こういう作品を読むと、SFのルーツは『フランケンシュタイン』だというオールディスの説が説得力をもってくる。

 ウェルズは『タイムマシン』の定稿を得るまでに七回書き直したというが、SFはこの七回の改稿のどこかに誕生したのだ。改稿の過程を研究した本があったら読んでみたい。

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