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2006年07月31日

『サイバー北朝鮮』ウラジミール(白夜書房 )

サイバー北朝鮮 →bookwebで購入

 藤本健二氏の本で将軍様がたいへんなパソコン・マニアで、報告はすべてメールで受けとったり、毎日、数時間、ネットサーフィンをしていると読み、あの国の電脳事情が知りたくなった。そこで本書『サイバー北朝鮮』を手にとってみた。

 『サイバー北朝鮮』は「ハッカー・ジャパン」というアングラ系パソコン雑誌の連載コラム「ハッカー・アジア」から北朝鮮関係の記事を集めて作った本だそうで、発行は2003年9月、一番新しい記事は同年7月である。コンピュータ・プローパーの話題とコンピュータ周辺のアングラ情報が半々だが、ドッグイヤーの業界なので、たった三年前でも話題は古くなっている(紹介されているサイトは消滅しているところがかなりある)。しかし、類書はなく、現在でも貴重な本であることに変わりはない。

 第一章は北朝鮮のインターネット事情をあつかっている。以前、ネットを騒がせたkpドメインの話も出てくる。

 インターネットの住所にあたるURLの最後の部分には、どこの国のサイトかをあらわす文字列(国別ドメイン)がつく。日本のサイトは kantei.go.jp、sony.co.jpのように「jp」がつく。韓国の国別ドメインはkr、台湾はtw、ロシアはruである。

 北朝鮮の国別ドメインはkpなのだが、kpドメインのサイトは一つもない。以前、北朝鮮がついにkpドメインのサイトを公開したというニュースが流れたが、例としてあげられている www.stic.ac.kp などにアクセスしようとしてもエラーになってしまう。IPアドレスの検索サイトで調べても、不明という答えしか返ってこない。

 どうなっているのだろうと思っていたが、本書によると北朝鮮は一国全体が閉じた構内ネットになっていて、インターネットには接続されておらず、kpドメインのホームページは構内ネットの内部のみで公開されているらしいとのこと(この件は第四章が詳しい)。

 では、北朝鮮のサイトのURLはどうなっているのかというと、国際ドメインを使っているのである(www.korea-dpr.com/www.dprkorea-trade.com/など)。

(今、検索したところ、ドメイン名取得代行業者の中にはkpドメインをリストにいれているところが多いが、本当に取得できるのだろうか)

 第二章は北朝鮮のスパイの連絡手段の話である。北朝鮮スパイというと、短波放送でただひたすら数字を読みあげる「A-3」という暗号放送が有名だが、これは2000年に終了してしまい、韓国の情報当局は困っているという。現在はインターネットを使って連絡しあっているらしいが、確かなことはなにもわかっていない。

 第三章は韓国の若者を北朝鮮シンパにするための対南工作サイト、「救国戦線」の話で、なんと、日本のサーバーを使っているそうである。

 北朝鮮は対南工作のために、韓国内の地下党が発信しているという建前で、「救国の声」という地下放送をやっていたが、やはり2003年で打ちきられたそうである。インターネット時代になったということもあるが、金大中政権・盧武鉉政権と、北朝鮮に対して融和的な政権がつづいたので、対南工作必要なくなったという見方もあるらしい。

 第四章は韓国の左翼系雑誌の記事をもとに、北朝鮮のネット事情を紹介している。本書の核となる部分で、一番おもしろかった。

 北朝鮮では限られた人間しかインターネットに接続できず、一般国民が使うパソコンは「光明」という閉じたネットワークにつながっている。「光明」は最初は電子メール機能つきの単純な図書目録検索システムだったが、現在はTCP/IPベースで作り直されている。TCP/IPベースの閉じた社内ネットワークを「イントラネット」というが、「光明」は要するに巨大なイントラネットなのである。科学技術情報が充実しているそうだが、いくら充実しているといっても、外部の情報をいちいち検閲してから転載するのであれば、生の情報をリアルタイムで閲覧できるインターネットとは月とスッポンだろう。

 第五章は北朝鮮IT技術者の養成機関や、待遇の話。この分野では金正男の存在が大きいらしい。

 第六章は北朝鮮に対してサイバー戦をしかけている韓国とアメリカの情報機関をとりあげている。エシュロンの話題も出てくるが、大した情報はない。

 珍らしい情報がてんこ盛りになっている本だったが、北朝鮮の文字コードKPS 9566をとりあげていないのは画竜点睛を欠く。KPS 9566がどんなに楽しい文字コードであるかは拙サイトに紹介しておいたので、興味のある人は参照してほしい。

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