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2006年06月26日

『原典 ユダの福音書』 ロドルフ・カッセル編 (日経ナショナル・ジオグラフィック社)

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 1700年ぶりに発見された『ユダの福音書』の翻訳に文書の修復にあたった専門家チームの解説と解題をくわえて一冊にした本である。翻訳部分は50ページあるが、注釈が多いので本文だけなら20ページ足らである。

 翻訳にあたっての後書や解題がないので断定はできないが、訳者の顔ぶれが『ユダの福音書を追え』と重なっていることからすると、コプト語からの翻訳ではなく、英語からの重訳だろう。素人が好奇心から読むには十分だが、おそらく10年後か20年後、岩波書店から出ている『ナグ・ハマディ文書』のような学問的な翻訳が刊行されることになるのかもしれない。

 裏切者とされてきたイスカリオテのユダが実はイエスのもっとも忠実な弟子で、イエスの命令によって彼を当局に通報したという内容だが、要するにグノーシス派の文献であって、こういう解釈もあるというだけのことである。わたしは信仰に無縁な人間だが、信者が読んでも信仰が揺らぐようなことはないだろう。

 同じグノーシス派の文献でも、『トマスによる福音書』には、イエスの時代にさかのぼるかもしれないと思わせるような言葉がそこここにみられが、『ユダの福音書』にはそうした生々しさは感じられなかった。素人の感想だが、グノーシス派の複雑な宇宙生成論が完成した後に書かれた教義の絵解きにしか思えなかった。

 おもしろいと思ったのは、ここに出てくるイエスはよく笑うことである。四福音書には、イエスが笑う場面は一つも出てこない。正統的なキリスト教からは笑いは排除されており、ウンベルト・エーコはそれをモチーフに『薔薇の名前』を書いた。

 笑うイエスは興味深いが、ただ、この笑いは大らかな笑いではなく、馬鹿にしたような笑いで、笑われた弟子たちは傷ついたり、怒ったりしている。このあたり、インテリの宗教であるグノーシス派の本質が出ているのだろうか。

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