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2006年04月24日

『ブログ 世界を変える個人メディア』 ダン・ギルモア (朝日新聞社)

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 最近は日本でもblogという言葉がすっかり定着したが、本書はblogの可能性を熱っぽく語った本である。

 従来のジャーナリズムは権威ある新聞社や放送局、出版社が一方的に読者・聴取者に御高説をたれる講義型だったが、blogの登場により、市民記者が自由に情報を発信し、互いに協力し、批判しあう対話型の草の根ジャーナリズムに転換していくというのが著者のビジョンである。

 こういう主張自体は珍しくない。Webが普及しはじめた頃もマスコミのような一対多型コミュニケーションから、多対多型コミュニケーションへという夢が語られたものだった。またかと感じる人もすくなくないだろう。

 Webは読むのは簡単だが、作るには若干の知識を要する。Webを創始したティム・バーナーズ=リーはWebの発展のためには誰にでも簡単にWebを編集できるツールが不可欠だと主張していたが(『Webの創成』)、ブラウザは急速に進化したものの、編集ツールの進歩は遅かった。

 blogがブレイクスルーとなった。blogは作る方の敷居を低くしただけでなく、トラックバックという機能によってリンクの密度を高めた。足踏みしていた革命がもう一度前進をはじめた。Web黎明期のビジョンがもう一度意味をもつようになったのだ。

 本書はこうした今起こりつつある変革の種々相を豊富な実例で具体的に語っている。

 アメリカでblogが認知されるきっかけになったのは 9.11同時多発テロだといわれているが、本書では各所でどんな動きがあったかを俯瞰し、ケネディ暗殺時と比較して、従来型のジャーナリズムとの違いを浮き彫りにしている。

 ギルモアは「草の根ジャーナリズム」を提唱するだけではなく、実践してもいる。ギルモアはシリコンバレーに本拠をおくサンノゼ・マーキュリーズ紙の記者だったが、1999年から「Dan Gillmor's eJournal」というblogを立ちあげている(本書も原稿をサイトで公開し、寄せられたコメントを参考に推敲したという)。現在は記者を辞め、「Bayosphere」という草の根ニュースサイトを運営している。

 草の根ジャーナリズムは記事をチェックする人間がいないので、情報の信頼性に疑問があるという指摘がある。名誉棄損で訴訟になるリスクもあるだろうし、blogで食べていけるのかという疑問もある。

 こうした問題に明確な答えはまだないが、著者は多くの実例を提供してくれている。

 オーストラリアの最高裁が、裁判管轄権は原告の在住地にあるという判決を2002年にくだした話ははじめて知った。オーストラリアの人や会社を誹謗すると、発信地が外国でも、オーストラリア国内で提訴され、世界で一番厳しいといわれているオーストラリアの名誉棄損法で裁かれることになるのだ。無茶な判断だと思うが、インターネットはグローバルなメディアだから、裁判管轄権の問題は避けてとおるわけにはいかない。

 blogで収入がえられるかという問題については広告、アフリエイト、投銭と、日本でもおなじみの収益源がひとわたり検討されるが、ナノ・パブリッシングという日本では聞きなれないビジネスモデルが紹介されている。

 専門雑誌が成り立つほどではないが、ある程度の読者が見こめるニッチな分野向けの専門サイトを立ちあげ、広告やアフリエイトで稼ぐというもので、ロングテールの一種といえるだろう。専門性の高いblogにスポンサーを見つけ、収益を筆者と折半するというビジネスもあるという(例としてあげられているサイトを見た限りでは、特別うまく言っているとも思えないが)。

 経済的な裏づけがないなら、blogは既存ジャーナリズムにとってかわる存在になることはなく、隙間メディアにとどまると見た方がいいだろう。

 むしろblogの恩恵に一番浴するのはジャーナリストに取材される側かもしれない。

 アメリカ国防総省はラムズフェルド国防長官が受けたインタビューをテキストに起こし、全文をネットで公開している。たとえば、2002年1月9日にワシントン・ポスト紙のボブ・ウッドワード記者がおこなったインタビューは翌月掲載されており、今でも読むことができる。

 記事というものは料理の仕方で随分印象が変わるものだ。取材の一部始終が公開されると、記事を書く側にとってはかなりのプレッシャーとなる。ジャーナリズムを委縮させるという人がいるかもしれないが、言いっぱなしの講義型ジャーナリズムの慢心を防止するためにも、こうした緊張関係は必要だろう。

 原著が出たのは2004年だが、ネットの世界は動きが速いので、2年とはいえ、古くなった部分やズレが顕在化した部分がある。しかし、blog黎明期の雰囲気を伝えており、blogの原点がどこにあったかを確認させてくれる。本書はこれからも読みつがれていくだろ。

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