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2006年03月29日

『世界のかなたの森』 ウィリアム・モリス(晶文社)

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 ハイファンタジーの源流というべきウィリアム・モリスの後期ロマンスである。
 主人公のウォルターは裕福な商人の息子だったが、結婚生活に行き詰まり、妻に裏切られる。故郷の町にいたたまれなくなった彼は父親の持ち船に同乗して、冒険に向かうが、出発しようとした矢先、この世ならぬ美しい貴婦人と彼女にかしずく乙女、そして醜い小人の三人連れの幻を見る。
 ウォルターは異国の港町に逗留して元気をとりもどすが、父親が妻の実家の者に殺されたという一報を受けとり、急遽、帰国しようとする。しかし、船は嵐にあい、見知らぬ土地に漂着する。
 一行は親切な老人にむかえられ、食料を提供される。老人は美しい農園に一人で住んでおり、奥地には女神を崇拝する熊族とよばれる蛮族が住んでいると一行に教える。ウォルターは仲間が狩に出ている間、老人から彼がこの土地に住み着くようになった経緯を聞く。老人は若い日、農園にたどりつき、農園の主人から禁じられた冒険に出るために、主人を殺していたのだ。彼は行ってはならないといわれた彼方の国で女神の犠牲にされかけたが、別の女性に救われて、命からがらもどり、農園を受け継いだと語る。
 ウォルターは老人の話に冒険心を刺激され、次の狩の際、「地の裂目」と呼ばれる狭間を一人通って、彼方の国にはいりこむ。そこで彼が会ったのは、以前、故郷の町で幻に見た乙女だった。
 乙女はここが危険な土地であり、助かるには彼女の女主人にとりいらなければならないと彼に教える。女主人は幻に見た美しい貴婦人だったが、邪悪な本性をもち、異国に夢を送って美しい青年を呼びよせ、飽きると殺していた。ウォルターははたして女主人の国を脱出することができるのか。
 モリスのファンタジーは朝風にたとえられたり、爽やかとか、涼やかと評されることが多いが、この作品は発端からして爽やかでも涼やかでもない。主人公は妻の不倫に悩み、離縁しようとしても彼女の身体が忘れられず、悶々としている。彼の不幸な結婚生活は、今ではモリスと妻のジェーンの関係の反映であるという説が有力なようだが、ゴシップ的な詮索は文学性とは無関係なので、控えておこう。
 ウォルターは生々しい夫婦関係から逃れ、異郷で女主人と乙女という、元型的な一組の女性に出会うが、この二人もあまり爽やかではない。女主人は邪悪な魅力をふりまいているし、乙女の方は可憐ではあるが、裸に剥かれ、鞭で打たれるというサディスティックな場面が遠回しに暗示されている。後半、主人公と乙女の逃避行がはじまるが、男女二人だけになっても肉体の関係は先延しされる。危険な土地を抜けるまでは乙女は魔法の力をたもちつづけなければならず、そのためには処女でいる必要があるということになっているからだ。
 女盛りの女王と可憐な乙女の対比は、モリスの最高傑作『世界のはての泉』において「豊穣の女王」とアーシュラの対比として展開されるが、この作品では短いけれども凝縮された形で示される。モリスとしては異色作だが、余韻が深い。
 モリスのファンタジーの魅力は読み手の想像力を刺激し、余韻を持続させるところにある。それだけに、読み手側の積極的ないれこみが必要となる。映画を見るように受け身であっては、さっぱりおもしろくないだろう。
 C.S.ルイスやトールキンのようなファンタジーの書き手が熱烈に傾倒しているのに、一般の人気がもう一つだという理由も、そのあたりにあるかもしれない。

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