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2011年09月29日

『在宅ケア「小規模多機能」―認知症やひとり暮らしを支える』土本亜理子(岩波書店)

在宅ケア「小規模多機能」―認知症やひとり暮らしを支える →bookwebで購入

「「24時間・365日の安心」の理想と現実」

以前の書評(2010年9月21日 注1)で「小規模多機能サービス拠点論」についてふれたことがありますが、今回は、そのようにして導入された小規模多機能(注1)が現在どのような情況にあるのかを知ることができる、優れたルポをご紹介します。
(注1)精確には「小規模多機能型居宅介護」といって、2006年4月の介護保険法改正で新設された「地域密着型サービス」のひとつとして創設されたサービスを指します。「小規模」というのは一事業所の登録定員が25人以下であることを意味しており、「多機能」というのは、「通い」(デイサービス)、「泊まり」(ショートステイ)、「(自宅への)訪問」を組み合わせることで利用者の生活を支えようとすることを意味しています。

ライターと介護福祉士(ヘルパー)の二足をわらじをはく著者の土本さんは、短時間の訪問サービスやサービスの種類ごとに事業者が変わることなどが利用者にとって心身的なマイナスになる部分があることを実感し、「自宅に24時間・365日の安心を届けます」とうたう小規模多機能に興味を持ちます(本書「プロローグ」より)。それをきっかけにして行なった取材から、いくつかの事業所の活動が詳細に報告され、その現状と問題点が考察されています。丁寧な取材に基づいているだけでなく、一部の事業所では利用者への取材も実現している(これは、事業所の理解や取材協力者との信頼関係構築などハードルも多く、 非常に手間ひまのかかるところがあります)ことから、現場の臨場感を伝える豊かな内容になっています。

この本を読んでいると、小規模多機能には魅力があることを感じます。たとえば、取材先のひとつである「多機能ホームまどか」(埼玉県新座市)の利用者である新一さん(89歳)は、徘徊癖の持ち主で、しばしば「家に帰る」などと言って家を出て行ってしまいます。同居している88歳の妻は、腰痛もあって、追いかけていくことができません。このようなときに「まどか」に「そっちに向かっています」などと連絡すると、スタッフが車で探しに行ったり、あるいは近所に住むスタッフに連絡をとって探しに出てもらったりします。また、妻の腰痛の状態によって訪問介護を増やしたり減らしたり、ということも行なわれています(本書52-62ぺージ)。このように、近隣の小規模多機能が利用者の状況にあわせてサービスを柔軟に対応させトータルにサポートすることで(注2)、それがなければ「もう施設に入れるしかない」と家族が思いつめてしまうような人でも、少なくともある程度の期間、在宅をベースにした生活ができる可能性があると思います。この例の他にも、地域包括支援センターの委託を受けて成年後見制度を活用し、利用者が訪問販売等にだまされないようにする試みをしている事業者や(本書121ページ)、医療依存度の高い人の受け入れにこだわりを持つ事業者など(本書128-140ページ)、興味深い活動をしているところがあります。これら個性豊かな事業者が、各地域に比較的多数できて、それぞれの良さを活かし足りない部分は補い合うためのネットワークを組むことができれば、非常に強力なサポート制度になるのではないかと感じられます。

(注2)ただし、実際には訪問に力を入れていない事業所もあることが、本書115ページで報告されています。小規模多機能であれば皆このようにしている、とは考えない方がよいかもしれません。

しかし、土本さんの取材と分析によって、この小規模多機能が深刻な制度的問題を抱えていることが明らかになっています。もともとこのサービスが設計されたときに想定された利用者は、中重度の要介護者(要介護3以上)でしたが、現状では要介護1~2の軽中度の人による利用が多くなっています。すると、サービスを提供した場合に事業者に払われる介護報酬が、軽中度の人の場合は低めに設定されているため(本書34ページ)、事業所はきわめて厳しい経営を強いられることになります。およそ20人の登録定員(上限の8割)を常に確保していないと黒字にならず、事業所によっては運営者(多くの場合は施設を開いた代表者)が給与を放棄することで経営のつじつまをあわせているところもあります。また、思うようにスタッフの人数を増やせない状況で、利用者の生活をトータルにサポートするといっても、おのずから限界が発生し、その線引きに関する悩み(「小規模多機能はどこまでサービスを行なうのか」本書63ページ)が発生します。(注2でふれた「訪問」部門の縮小も、おそらくこのことに関係があると思われます。)これでは、いびつな制度と言わざるをえません。

近年になって出てきた言葉であるため「小規模多機能って何?」と思われている方も多いだろうと思います。理念ばかりでなく実態をふまえた、具体的で分かりやすい一冊です。小規模多機能の魅力と、その魅力がこのままでは育っていかない現実と、いずれをも理解できると思います。


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