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2005年11月10日

『図解 社会学のことが面白いほどわかる本』浅野智彦(中経出版)

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「社会学教員にとっては「救い」の一冊」

「社会学がどういうものか1冊で分かる日本語の本を教えてください」――こんな何とも虫がいいニーズを日々肌で感じながら、私は大学教員生活を送っています。でも考えてみると、大学生のニーズとしてはもっともな部分もあります。「社会学」という科目は高等学校までの科目には出てきませんから、イメージがわきません。さらに、社会学の面白さは、研究対象によるものではなく(その点では「何でもあり」に近い)、むしろ社会現象に対する「見方」の方にあるようです。だから、その中の断片的な部分だけ聞いて少し興味を持ったとしても、全体像をつかんだような気分にはとてもなれないのだろうと思うのです。

さて、そのような虫がいいけれどもごもっともなニーズに対して、どう応えられるか。シリーズで出ている基礎テキストはあるのですが、あまり根気のない人でもとりあえず読みきれる程度の、日本語で分かりやすく書かれたテキスト……これはなかなか見当たりません。頭の痛いところです。

こんな状況の中で、私の救いになっているのがこの本です。編者の浅野智彦氏を中心に、岩田考氏、加藤篤志氏、菊池裕生氏、苫米地伸氏という若手(中堅?)執筆陣による記述は平易で、常に具体例を織り交ぜながら進められるので、どんな初学者にもためらうことなくお勧めすることができます。大学受験の参考書を思わせるようなカラフルな表紙のデザインは、中を開く前から既に「分かる、分かるぞ」という気分にさせてくれますし、実際に中を開いても、随所に散りばめられたイラストが、難しい本を読んでいるという圧迫感から読者を解放してくれます。

構成を大雑把に紹介すると、社会学がどのような学問かについて導入するプロローグ「ちょっとだけ『社会学への招待』」から始まって、自己と消費社会(第1章「社会学でわかる『私』という存在」)、コミュニケーションとメディア(第2章「社会学でわかる対人関係」)、家族、ジェンダー(第3章「社会学でわかる家族」)、雇用(第4章「社会学でわかる会社と仕事」)、流行、宗教(第5章「社会学でわかる文化・風俗」)、日本社会の階層、社会保障、政治(第6章「社会学でわかる国家と政治」)、グローバリゼーション、ナショナリズム(第7章「社会学でわかる世界情勢」)と続き、最後が社会学史の素描(エピローグ「ちょっとだけ『社会学入門』」)となっています。これらは現在の社会学で行われている研究領域を網羅するものではありませんが、例えば「メディアの発達によって対人関係は希薄化するのか」とか「なぜフリーターは増えるのか」、あるいは「政治的無関心は増大しているのか」といった形で、学生をはじめ若い世代が関心を向けそうなトピックが積極的に取り上げられているのが特徴です。

昨年度に私が関わった卒業論文の思い出なのですが、英会話教室に通う人々のことを取り上げたいという学生がいました。当初、彼女は、人々が英会話教室に通う動機がしばしば漠然としている点に興味があると言っていましたが、具体的にどのようにアプローチしていいのかよく分からないようでした。私もよく分からなかったのですが、この『面白いほどわかる本』の中にひとことだけチラッと例に挙がっていたのを思い出し、その部分を彼女に読んでもらって、英会話教室に通うという現象に対する社会学の見方を理解してもらったのです。その見方とは、英会話教室に通うということは、単に「勉強」や「学習」といったことだけではなく、消費行動としてもとらえられるということ。つまり、語学力が伸びたかどうかということとは別に、そこに通うことで「私」を感じることのできる、そうした商品として英会話教室を見ることができるということです。すると、商品としての英会話教室を消費することで感じることができる「私」を人々(最終的には20~30代の女性に焦点を絞りました)はどのように語るだろうか、というリサーチ・クエスチョンに到達することができます。たった1箇所の文言に藁をもすがる思いでしがみついてみたのですが、最初はピンと来ていないようだった学生も、卒論が仕上がるころには、そうした社会学の見方が持つ面白さを充分に堪能してくれたようでした。(その成果は、富山大学人文学部社会学コースのホームページ公開版「卒論ライブラリ」でご覧いただけます;2004年度、高橋莉代「英会話学校に通う女性たちの提示する自己像――働きざかりの現代女性の生き方に関する一考察」)

学生が漠然と興味を示す社会現象に対して、社会学はどんな見方を提供することができるのか。こんな問いをたえず突きつけられる立場にとっては、有難い一冊です。

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