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2013年03月31日

『20歳の自分に受けさせたい文章講義』古賀史建(星海社新書)

20歳の自分に受けさせたい文章講義 →bookwebで購入

「今すぐ書くための文章術」

 『20歳の自分に受けさせたい文章講義』では、プロのライターである古賀史健が、今までに培った文章を書くためのノウハウを、惜しげもなく披露している。非常に分かりやすく、時には思い切った切り口でヒントを与えてくれるので、文章が書けない、文章を書くのは苦手だ、と思っている人たちには、嬉しい一冊となっている。

 まず「書けない」と思っている人たちを助けるために「頭のなかの『ぐるぐる』を、伝わる言葉に“翻訳”したものが文章なのである。」と解説する。これは谷川俊太郎等の文章の達人たちがエッセイで書いている、自己の内部に存在している言葉にならない未分化の概念を、言葉として表現する「産みの苦しみ」を指している。それを「翻訳」という分かりやすい言葉で説明しているのだ。

 「翻訳」するための具体的な方法の一つが「聞いた話を“自分の言葉”で誰かに話す」ことだ。その過程を通して「再構築」、「再発見」、「再認識」をしていく。古賀は「翻訳」の過程で「考える」事を最重要視している。これは非常に大切な事だ。この本は一見すると、今風のライターが、今の若者向けに面白おかしく書いた軽い一冊と取られるかも知れないが、全く違う。「書く」という行為の本質を見失わずに、ただ分かりやすく、読みやすい姿を取った、正真正銘の文章術なのである。

 もちろん古賀は、谷崎潤一郎のような、ともすれば悪文とも言えそうな特殊な文学的美文を目標にしているのではない。あくまでも普通の人が日常的に書く文章を念頭に置いている。ITの発達のおかげで、多くの人が毎日ブログを書き、メールを送り、SNSで書き込みをしている。つまり、皆が「ライター」となっているのが現状だ。故に「業種や職種に関係なく生涯にわたって身を助けてくれる武器、それが文章力なのだ。」という発言には説得力がある。

 講義は「リズム」、「構成」、「読者の目」、「推敲」に分けられているが、どの項目においても、思い切った提言がなされている。例えばリズムに関しては「みんなもっと接続詞を使うべきだ」、「1行の間に必ず句読点をひとつは入れる」、「最大5行あたりをメドに改行したほうがいい」等の興味深い考えが見られる。学校で習う抽象的で分かりにくい指導と比べると、逆説的手法による分かりやすい迫り方だ。
 
 構成では、読者に文章を読み続ける興味を持ってもらう方法について説く。種々の実践的な方法が示唆されているし「読者はいつも『読まない』という最強のカードを手に、文章と対峙しているのである。」というのは、プロの書き手の意識が全面に押し出されていて、納得できる。次にその難しい読者の目を持って、自分の文章を見つめる事を勧める。ここでは書き手と読み手の意識を明確に繋ぐ手法が語られる。良き書き手は良き読み手でもあらなければならない。

 最後は自身の映画好きからヒントを得た、独自の推敲論を展開している。タイトル通り、どちらかと言えば若者に向けて書かれているのだろうが、文学の論文の添削を生業にしている私にとっても、興味深い点が多々あった。改行が多い文章には、必ずしも読みやすいとは思えない部分もあるが、メール、ブログに慣れた人たちには、却って分かりやすいのかもしれない。何にしろ、時宜を得た一冊である事は間違いない。


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