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2011年03月27日

『王国』よしもと ばなな(新潮文庫)

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「癒しと回復の物語」

 今回の大震災の被災者にお見舞いを申し上げますと共に、犠牲者のご冥福を心からお祈りします。ここフランスでも、様々な方が義援金募集活動をしていて、緊急時にこそ人々の暖かい心がよく分ります。原発の状況も予断を許さないものでありますが、一日も早く終息して、皆様が日常を取り戻す事ができるよう、強く願っています。

 こんな時に、どのような本を読むべきだろう。すぐに思いつくのは、震災後の復興に役立つような実戦書であり、苦しんでいる人々を多少でも癒す事のできる本だ。よしもとばななは初期の『キッチン』や『哀しい予感』等で、すでにある種の特殊能力を持つ人々を登場させ、『アムリタ』でそれを大きく発展させていった。『王国』はそれが充分に生かされている作品だ。

 主人公は雫石という若い女性だが、これは彼女の回復の物語であり、また全ての人々、いや地球全体に対する「癒し」を描いた作品でもある。雫石は山奥の山小屋で祖母と二人暮らしをしていた。祖母は薬草茶を作る名人で、彼らの山小屋まで徒歩で時間をかけて登ってくる人々の癒しのために、お茶を処方していた。劇的に効く事もあれば、単なる健康促進の事もある。しかし必ず効果はある。商品化しようという話を断り、彼女たちは山の恵に囲まれて、静かに幸福に暮らしている。

 しかし、ある日祖母が、マルタ島に住んでいるメル友の日本人男性と暮らす事にしたから、山を降りると告げる。しかたなく雫石も山を降り、都会で暮らし始める。サボテンを育てながら(雫石という名前もサボテンから来ているらしい)アルバイトを探す時に、眼の不自由な占い師である楓と運命的な出会いをする。楓は素晴らしい力の持ち主だが、雫石は「ものごとの本当の姿を見ること」ができると言う。

 物語は雫石と楓の関係を中心に、楓のパトロンで同性愛者である片岡、サボテン園の職員である真一郎、雫石の祖母等が加わり展開していく。片岡は雫石に対して毒舌を吐くが心は優しい。真一郎とは恋をし、分かれる。祖母はいつも的確な連絡と助言をくれる。全ては雫石の回復のためにある。彼女は恋をし、破れ、火事に遭い、テレビ中毒になる。ある意味都会の毒気にあてられてしまうのだ。楓たちはその解毒剤となる。

 雫石が気に入って通っている居酒屋のマスターが言う。「雫石ちゃんが元気になると、影響を受ける人が必ずいるんだ。それが人間っていうものなんだ。」その通りだろう。今も、自身が被災者であるという非日常的な状況の中で、避難民のために元気で走り回っている人達が沢山いる。彼らの映像を見ると、遠く離れている私たちも元気がもらえる。そして、元気である私たちも、彼らの応援をしなくてはと心から思う。

 雫石という名前は、1971年の民間機と自衛隊機の衝突事故をも思い出させる。多くの方たちが亡くなったが、祖母と雫石は彼らの魂を浄化させる役割も担っているのかもしれない。私たちは自然の一部であるし、そうである以上、自然災害は避け得ない。ならばそれと共に生きていくしかない。だが、少なくとも「人災」は減らせるはずだ。自然の力を見くびらず、等身大にしっかりと捉えて、共存していくことの大切さを、この作品は示しているようだ。


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