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2008年01月20日

『蜘蛛女のキス』マヌエル・プイグ(集英社文庫)

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「不可能な恋」

 フランスには同性愛者が多い……のかもしれない。かつて、クラシックバレーの世界にいた友人(男性)は、この世界の男性は確かに同性愛者が多いと言っていた。ファッション界の友人(女性)は、街でセンスが良く美しい男性を見たら、同性愛者と疑った方が良いと言った。

 こんな話もある。アフリカのとある国から私の学校に転校してきた日本人女子高生がいた。アパートが決まるまで、父母と姉と一緒にパリ市内のホテルに滞在していた。朝食の時に時々出会う素敵なフランス人男性が、彼女たちににっこり笑いかけて「ボンジュール」と言ってくれる。彼女たちは少しときめいていた。

 ある日、父親抜きで朝食をとった時にこの男性に会ったが、全く挨拶してくれない。おかしいと思って、良く考えた結果出た結論は、彼は彼女たちにではなく、彼女たちの父親に微笑みかけていたのだ! 確かに、父親は背も高く、なかなか素敵な男性であったが……

 プイグの『蜘蛛女のキス』は、テロリストとホモセクシュアルの男性との不思議な恋物語である。未成年の子と関係を持ったために8年の懲役となった37歳のモリーナは、26歳のテロリスト、バレンティンから情報を手に入れたら釈放してやると言われ、刑務所内で同房となり、彼に接近する。

 モリーナが愛するのは「ノーマル」な男性、つまり異性愛者である。だが、モリ―ナは同性愛者であるため、彼の恋は成就することがない。あらかじめ不可能な人生を彼は生きている。病気の母の世話をしたいがために、刑務所を出るためにヴァレンティンに近づくモリーナだが、そのうち彼を愛するようになる。

 バレンティンは社会主義者であり、武力革命を起こそうとするグループの一員である。当然モリーナのような同性愛者のことは認めない。獄中にあっても社会主義を学び、強い向上心を持っている。全く接点の無いような二人だが、モリーナが映画の内容をバレンティンに語っているところから、作品は始まっている。バレンティンは徐々に映画の内容に惹かれていく。

 モリーナは映画が好きで、自分をヒロインと重ね合わせる。ヒーローではない。愛する人のために行動し、愛する人の腕の中で死んでいく。それがモリーナの理想だ。しかし、異性愛者が彼を愛することはできない。モリーナの夢は実現することが無いのだ。

 食事の中に仕込んだ薬により、バレンティンが病に倒れる事から二人は急接近する。一回目は偶発的に、二回目はほぼ望んだ形で結ばれる二人だが、結末は悲しい。モリーナはバレンティンへの愛のために、テロリストの仲間と連絡をとることを約束し、それが原因で死んでいく。バレンティンは拷問により意識が遠のく中、愛する女性とモリーナを混同していく。

 映画監督を目指していたプイグの作品は、映画そのものの話も豊富であるし、視覚的イメージを多用している。会話文も粋なものだし、二人の関係も限りなく優しい。「友達以上恋人未満」、「性同一性障害」などという言葉が一人歩きし、人をカテゴリー分けしてしまいがちである我々に、性とは何であるのか、愛とはどのようなものであるのか、原点に戻って考えさせてくれる作品だ。

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