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2009年12月19日

『日本開国』渡辺惣樹(草思社)

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副題に「アメリカがペリー艦隊を派遣した本当の理由」とある。帯には「捕鯨はたんなる口実だった!」と大きく印刷されている。江戸幕府の鎖国政策が19世紀になって解かれ、日本開国、そして明治維新に至った日本史を解析するために何か新資料が出現したのか、と思い、本書を手に取ってみた。

歴史の著述が簡単な作業ではないことは、私が8月に紹介した『ヨーロッパ史学史』に関するブログでも触れた。史実を客観的に書くためには膨大な量の資料に当たり、それらを吟味し、取捨選択し、そして時間軸にそって組み立てなおす、という気の遠くなるような作業が必要だ。“時間軸”といっても容易ではない。日本開国に関しては、ヨーロッパ、アメリカ、そして日本でさまざまな事象が同時進行していく。これら並行して起こっている出来事をどのような順で並べればその相互関係が明解になるか、という課題の解決には限界があろう。個々の事象がまわりにいろいろな影響を及ぼしながら動いていく世界の様を書きおろすのは至難の業だ。

複雑に絡み合った史実を素直に語り、可能な限りゆがみの少ない全体像を得るために渡辺が試みた方法は「点描」というものだった。著者自身の言葉を引用しよう。

…そんなときにふと思い出したのがジョルジュ・スーラの点描でした。…実際に美術館に足を運んで実物に接すると、その作品の大きさに圧倒されます。…この大作に向かい合うには、画面にかぶりついたら負けてしまいます。作品と充分に距離を置かなければなりません。ゆっくりと後ずさりしていくと、カメラの焦点が合うように最適な立ち位置がわかってきます…

個々の点だけに注目しても全体像は見えない。たくさんの点の集合を、適切な距離から俯瞰することによって、はじめてその意味が見えてくる、というのである。そんなわけで本書は序文に続いて33のエッセイ風の物語が並べられている。並んでいる話は、必ずしもストーリーとして連結しているわけでばない。「なぜこんな話題に飛ぶのだろう」といぶかしく感じることさえある。しかし渡辺が長年にわたって収集したさまざまな情報に著者なりの感想を加えた短編を読み進んでいくうちに、それとなく時代の雰囲気、誰がどんな思惑で何をしようとしていたか、などを次第に感じられるようになるのが不思議である。各国がとった行動が良かったのか、悪かったのかはわからない。それが歴史というものだろう。

渡辺は歴史の専門家ではない。経済畑で活躍するカナダ在住のビジネスマンである。グローバルな貿易の仕事を通じて日米関係に興味を持ち、とりわけ日本開国に関するアメリカ側の資料を精力的に収集するようになったという。渡辺が、開国当時すったもんだのあげく米国領事が駐留することになった下田の出身であることも、史実探求への大きな原動力となったのだろう。本書は渡辺の体内に巣くった「なぜ?」という疑問を辛抱強く解き明かそうとした、努力の結晶と言えよう。

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