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2009年05月27日

『富士山を汚すのは誰か──清掃登山と環境問題』野口健(角川書店)

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「世界で最も汚い山」という汚名を着せられてしまった日本の霊峰、富士山。世界遺産として登録したい、という気運が盛り上がっていたものの、ゴミ問題が大きなネックになっていた。数年前の報道では「ゴミ処理に関して富士山周辺に位置する自治体の連携がうまくいかず、困っている」ということだった。

本書は昨年5月に出版されたものだが、その後ゴミの状況はかなり改善されたという。著者の野口は有名な登山家だが、彼は世界の最高峰エベレストで「清掃登山」という新しい活動を行い、それが富士山にも波及した。本書には野口が清掃登山を始めることになったいきさつと、その進行状況が詳しく綴られている。

登山家だからこそ気がつく視点もたくさんあり、興味深い。その一例として、エベレストのふもとにある村落で、飲み水から大腸菌が検出されるようになったことが書かれている。その昔海抜5,000メートル以上の高地に設置されたベースキャンプの氷河に埋められた登山家の糞尿がその後長い年月をかけて低地まで移動し、それが水に溶けたことが原因だという。

環境問題はそれが顕在化するまで時間がかかる上に、その解決までまた長い時間がかかってしまう。昨今問題視されている地球温暖化もそのひとつだが、解決策の有効性に関する議論からして延々と終わりそうもない。何とかならないものだろうか。

国際的な活動をしている野口は、マナーやエチケットに関する民族間の差についても言及している。子供の時からこうした教育が行き届いているヨーロッパ諸国の人々の行動に対し、わかってはいるものの付け焼き刃になってしまい勝ちなのがアジア民族だ。アメリカもヨーロッパに比べると、やはり消費社会としての影響が感じられるそうだ。エベレストにおけるゴミに関し、日本隊の行動はその後かなりましになったものの、そのかわりに現在は韓国隊と中国隊が大量のゴミを排出しているらしい。

観光地である富士山には年間30万人もの人が登るという。これでは人間の生理的排泄物の量も半端ではない。それに加え、たとえ小さなゴミでも各自がひとつづつポイ捨てすると、年間30万個のゴミが増えることになる。しかしその逆もあり得るだろう。意識さえ高まれば、毎年30万個のゴミを減らすことも不可能ではない。

しかし問題は、たとえゴミを持ち帰ったにしても、そのゴミが消えてなくなるわけではないことだ。どこかで処理する必要がある。「ゴミを出さないのが一番」とは言うものの、口に出すほど簡単ではない。ほとほと人間とは困った存在だ…。

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