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2005年09月13日

『モーツァルト 演奏法と解釈』(音楽之友社)

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モーツァルトのピアノ作品をモーツァルトらしく弾けるようになるための指南書だ。読んでおもしろい、という本ではないが、奥が深い。難解な学術書とは違って実践のためのアドヴァイスがたくさん掲載されている。ここから得られる知識は他ジャンルや作曲家の作品にも応用できる。いわば実用書なのだ。日本語の初版が出版されたのは1963年。以来40年以上も版を重ねた、音楽専門書としてはまれにみるロングセラーだったが、この貴重な書籍もとうとう絶版となった。このコーナーで一般向けの書籍として紹介するにはどうか、と迷ったが、まだ書店や楽譜ショップには在庫が残っているところもあるようなので《購入ラストチャンス!》の緊急アピールとしてご理解願いたい。

著者バドゥーラ=スコダ夫妻は私の恩師である。ご主人パウルは「ウィーンの三羽がらす」としてならした世界的なピアニストだ。モーツァルトはお手の物。もうすぐ80歳になるが健在で、演奏活動もあいかわらず活発だ。しかし「第二次世界大戦からの復興期に彗星のごとくあらわれたピアノ界のスーパースター」だったため、日本ではオールドファンは多いものの、現代の聴衆の間での知名度が今ひとつなのが口惜しい。生粋のピアニストとしてのノウハウに音楽学者エファ夫人の学術検証をミックスしてまとめられたこの本は、正統派のモーツァルトを演奏したいと思うピアニストにとっては欠かすことのできない参考書だし、これからもその価値は変わらないだろう。

絶版にはなってしまったものの、モーツァルト生誕250年にあたる2006年には英語の改訂版が上梓される。数年後には改訂版の邦訳が入手できるのでは、と淡い期待を抱いているのだが、果たして??

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2005年09月01日

『現代医学のみた大作曲家の生と死 ハイドン、モーツァルト』(東京書籍)

現代医学のみた大作曲家の生と死 ハイドン、モーツァルト →bookwebで購入

「死に様」の話題は人の注目を集めやすい。殺人事件の顛末を憂い、闘病記のたぐいに心を痛める裏には、死に関する興味がひそんでいる。それもそのはず、誰もが避けて通れないのが死である。自分にどんな死が準備されているかは、その時になるまでわからない。

過去の偉人がどんな苦労をし、いかなる限界に挑戦し、挫折から立ち直り、そして栄光に至ったかが書かれた“偉人伝”は誰でも読んだことがあるだろう。実はこのような話には事実無根の脚色が含まれていることが多い。たとえ主人公と直接交流があった同時代人の書いた伝記でも、額面通り信じてはいけないのだ。特に病気や死因に関しては、まだ医学が未発達な時代の見解をそのまま鵜呑みにするわけにはいかない。

本来は作曲家の音楽活動の実態を解明するための資料から健康に関する記述と史実を綿密に洗い出し、それを現代医学の知識によって再検討した結果がこの本にまとめられている。本書はハイドンとモーツァルトのみの内容となっているが、原著は全3巻の大著で、ハイドンからマーラーまで14名の作曲家に関する病跡研究が収録されている。まず作曲家の人生を追い、その後に疾病と死病に関する見解がわかりやすく語られる。今まで信じられていた通説が否定されることもある。モーツァルトの死因はその一例だ。

著者のノイマイヤーはウィーンで著名な内科医だが、ザルツブルク音大のピアノ科も卒業し、在職中も定年後もウィーンフィルのメンバーたちとアンサンブルのコンサートを公開の場で行うほどの腕の持ち主だ。私も実際その演奏を聞いたことがあるが、プロとしても遜色ない。医者にして音楽家──作曲家に関する病跡学の分野でこれ以上の適材は考えられないだろう。

ところで、残り12名に関する内容が日本語で読めるようになる日は訪れるのだろうか…?

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