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2018年02月06日

『日本帝国崩壊期「引揚げ」の比較研究-国際関係と地域の視点から』今泉裕美子・柳沢遊・木村健二編著(日本経済評論社)

日本帝国崩壊期「引揚げ」の比較研究-国際関係と地域の視点から →紀伊國屋ウェブストアで購入

 本書は、「第二次世界大戦中から日本が講和条約を締結するまでの時期を中心に据え、日本による戦争の遂行、敗戦によってもたらされた「引揚げ」、及びこれに関連する動きを、「引揚げ」の前提をなす「移民」の進出過程や、そこに形成された地域社会との関係から考察する」。

 本書が便利なのは、「序章 近年の「引揚げ」研究の視点と本書の課題」に加えて、「補論 研究動向」に「補論1 韓国における朝鮮人「帰還」研究」「補論2 日本人の引揚げに関する近年の研究動向」があり、この分野の研究状況が詳細にわかることである。そして、2部全7章で、具体的な事例研究が示されている。

 「序章」では、まず「一 「引揚げ」研究への関心の背景-植民地研究、移民研究を中心に」で、「1 戦争研究、戦後史研究との関係」「2 植民地・移民社会における民衆像の再検討とその方法」「3 現代日本社会における「多文化」、「多民族」、「共生」への関心」が整理され、「二 「引揚げ」研究の研究史と論点」では、「1 「引揚げ」研究史の整理にみる論点」「2 「人流」としての「引揚げ」研究」「3 「境界論」としての「引揚げ」研究」「4 地域史としての「引揚げ」研究」の4つのキーワードを指針として視点と方法を整理している。

 「序章」で、筆頭編者の今泉裕美子は、つぎの3つの「引揚げ」研究の特色をあげている。「「引揚げ」研究は、アジア・太平洋戦争研究の発展と密接に関わって発展した。それは第一に、戦後日本社会を規定した同戦争の「記憶」のなかで封印、あるいは漏れ落とされた対象であったこと、しかも第二に、植民地支配とその延長線上に生みだされた戦争に関して、戦後日本が加害者の視点を欠落させてきた要因の一つとして「引揚げ」研究の不在があった、と認識されたことである。それゆえに第三に、東アジアの中の日本という視点で、しかも戦時と戦後の関係性を追求するテーマに「引揚げ」研究の必要性が自覚化された」。

 その密接にかかわったアジア・太平洋研究では、戦後50年、60年を契機として、つぎのような特徴が生まれた。「第一に、権力に押しつぶされた人びとの多様な経験、歴史を「記憶」から掘り起こそうとすること、第二に、従来の研究テーマや方法、研究主体の立場性に問い直しを迫り、歴史認識、戦争責任、「帝国」、「帝国意識」、「記憶」などを主題とする研究が増えたことである」。「また、「戦後処理」の観点から、外交史や東南アジア占領史においても「引揚げ」研究の前提となるような研究が進められた。さらに、慰霊や遺骨収集の視点から、引揚げ者や復員兵を取り上げる研究も始まった」。  そして、「三 本書の課題と構成」では、以上の整理を踏まえて、つぎの4つの課題をあげている。「第一は、「引揚げ」を歴史的なプロセスのなかで捉えること、「引揚げ」の前提となる植民地社会、移民社会の特徴を明らかにすること」。「第二は、「引揚げ」者を送り出した植民地社会、移民社会、引揚者を受け入れた地域社会にとっての「引揚げ」を考察すること」。「第三には、第二次世界大戦という人類にとって二度目の総力戦における日本の敗戦が、大戦後の日本の勢力圏、非勢力圏の植民地社会、移民社会をめぐる人の移動と新たな定着に与えた特徴を、総体として明らかにすることを念頭に、それぞれの事例分析をおこなった」。そして、「第四として、執筆者が個々に研究を積み上げてきた対象である国家、県市町村、都市、入植地や開拓村、島嶼、同郷者集団・民族集団が掲げる「出身地/本籍地/故郷」など、異なる性格をもつ「地域/地域社会」にそくして、「引揚げ」を分析した」。

 また、つぎの「四つの時間軸にそった特徴をふまえて分析した」。「①アジア・太平洋戦争における日本軍の劣勢化と総力戦体制の行き詰まり、②大戦中から戦後にかけての連合軍の占領による大日本帝国の勢力圏の縮小と各地域の「分断」、③植民地(委任統治地域を含む)・占領地住民の解放への動きと日本による支配体制の崩壊、以上のなかに準備される④「冷戦」体制の形成、である」。

 「引揚げ」について、海外に出ていた日本人が日本に帰ってくることを中心に語られてきた。だが、戦時体制下、あるいはそれ以前の日本の帝国形成にともなって、日本の勢力圏に入った人びとは勢力圏に入った地へ、広範囲に移動していた。それが、日本帝国の崩壊とともに、再度移動したのである。それは、故国・故郷に帰るといった単純なものではないことが本書からわかる。たとえば、第三章「パラオ諸島をめぐる民間人の「引揚げ」」では、アメリカ軍によってつぎのような分類の下、送還事業がすすめられた。「米軍は、"non-native Oriental people"を、"Japanese civilians"と"non-Japanese civilians"に二分し、後者については"Korean" "Taiwanese" "Okinawan" "Chinese"と区分した。中国人は日本軍に動員されてきたが、連合国側の人間として分類された。米軍が処遇が複雑だとしたのは朝鮮人である。カイロ宣言に基づいて「将来自由かつ独立が回復されるべき国家に属する者」であるため敵国人に分類しないとしたが、戦時中に日本軍兵士であった者はPOW[戦争捕虜]かDMP[武装解除軍人]に分け、軍属は民間人として扱うとした。一方、法的には「内地」であった沖縄県の沖縄人、植民地であった台湾の台湾人は、ともに長い間日本の統治下にあり、日本人とは"nationally indistinguishable"(国籍上の区別が困難)とし、内地の日本国籍保有者と同じ処遇にすべきか否かの検討が必要だとされた」。

 「引揚げ」研究は、いろいろな可能性がある。そして、研究が多様化、深化することによって、日本の帝国形成下に移動した・させられた人びとの実態が明らかになり、日本帝国史の一端が明らかになってくる。また、「引揚げ」後を理解することによって、日本の戦後史の一端が明らかになってくる。「引揚げ」研究は、日本の近現代史を問う重要なテーマのひとつであることが、本書からわかる。

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