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2018年01月09日

『歴史から理論を創造する方法-社会科学と歴史学を統合する』保城広至(勁草書房)

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 本書の概要は、つぎのように表紙見返しにある。「本書では、方法論の基礎と最先端をかみくだいて説明しながら、より優れた研究をするための新たな方法論を提示する。自分の理論に都合のいい資料しか使わない社会科学者と、狭い研究対象に埋没してしまう歴史家のあいだに横たわるギャップとは? それを解決する歴史分析の理論化とは? 専門用語をやさしく解説する「ショート解説」つき」。

 「国際関係や戦後日本外交を専門とする国際政治学者である」著者は、「はじめに」でつぎの「三つのレベルを、なるべく偏りなく盛り込むことを意図して」、本書を書いた。「第一に挙げられるレベルは、社会科学や歴史学の方法論初学者を対象とした、基礎的なそれである。社会科学と歴史学では、どのような点が異なると一般に考えられているのか。ある社会現象を「説明」するとはどういうことなのか。帰納法と演繹法とはどのような推論の方法なのか。自分の主張を裏付けるために、どのような社会現象を分析するべきか。そもそもなぜ、学術的な文章を書くには方法論を意識する必要があるのだろうか。このような、大学院生レベル以上には半ば常識だと思われる内容も、なるべく万人が理解できるように本書では詳しく解説している」。「第二のレベルとして挙げられるのは、近年アメリカの政治学界で発展がめざましい社会科学の定性的研究の手法を、なるべくわかりやすいかたちで解説しつつ、本書の随所で取り入れてある点である」。「第三のレベルは、社会科学方法論に対して、本書なりに新たな学術的貢献を行うことである」。

 本書は、序章「歴史と理論:古くて新しい緊張関係」、全5章、終章「さらなる議論を!」からなる。「本書の目的」「本書の構成」が「序章」の最後で語られており、各章の内容がまとめられている。「終章」でも「本書で論じてきたこと」で各章が要約されている。そして、「本書の意義と限界」で、「社会科学と歴史学とにはらむ問題は、両者を統合することで解決可能なのである」と結論し、つぎのようにその意義を強調している。「現代社会で生じた問題を解くためには、従来のように自分の研究分野内で培われた手法を使うだけでは、不十分なものになりつつある。この点においても、歴史学と社会科学を別々の枠の中に閉じこめておく必要性はどこにもない。両者の長所を活かすかたちでの積極的な融合は、今後も奨励されるべきなのである」。

 そして、最後につぎのような「本書の方法論にもいくつか限界があることを告白」している。「ここで提示した方法を実践するためには、ある程度の記述量が必要不可欠である。つまり残念ながら、小論文の執筆には向いていないことになる。そして歴史研究につねにつきまとう問題ではあるが、資料の開示状況によって、事例を選択する範囲の幅は大きく左右されてしまうだろう。仮に資料にアクセスできたとしても、適切な事例を発見し、記述説と因果説を満足させることは決して容易ではなく、かなりの根気強い努力が要求される。また、第1章第4節で論じた中範囲の理論形成法では、多国間比較は定義上不可能であり、研究の幅が制限されてしまうという欠点がある(44頁)。さらには、第5章第3節(144頁)で論じたように、複数事例間の分散があまりにも大きく、何のパターンもそこに見出すことができなければ、中範囲の理論構築は断念せざるをえないだろう」。

 まだまだ限界はある。歴史学を専門とする立場からいえば、実証主義的文献史学を基本とするかぎり、「木を見て森を見ない」ことから脱出することは不可能である。文献資料が比較的多く残されている陸域の温帯の定着農耕民社会を対象とする研究者が、文献があまり、あるいはまったく残されていない分野の研究を軽視しているため、狭い範囲に埋没している状況にまず気づかないので脱出しようがない。原資料にもとづかないことを議論しようものなら、ひとつひとつ間違いや不正確な記述を指摘していい加減なことを言うと非難し、その長所を認めようとしない。埋没しオタクと化した歴史研究は、ほかの分野の研究者には近寄りがたく、統合することなど不可能である。と言ってしまえば、身もふたもなくなってしまう。統合することで、従来できなかった研究を示すしかない。

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