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2017年11月07日

『知られざる皇室外交』西川恵(角川新書)

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 2017年10月30日の「朝日新聞」朝刊1面に、数年前に天皇は1992年の中国訪問を「よかった」と振り返っていたことを明らかにした記事が掲載された。禁じられているはずの天皇の政治的利用のもっとも悪しき例として批判されることもあることを、天皇自身が「よかった」という感想をもっていたのである。

 本書で著者が何度も繰り返して述べてきたことを、「おわりに」の冒頭でつぎのように念押ししている。「皇室外交という言葉に、宮内庁は「皇室には外交はありません」と言うだろう。確かに天皇は政治には関わらない。しかし本文でも触れたが、日本の国益や、政治、外交の脈略からまったく遊離した両陛下の外国訪問はあり得ないし、外国の賓客を日本に迎えた場合も、皇室と政府は巧みな補完関係と役割分担でもって賓客をもてなす」。

 「はじめに」で、著者、西川恵は日本と外国の報道の違いを、つぎのように説明している。「日本では、天皇、皇后の外国訪問は政治や外交とは無関係の国際親善であると説明される。日本のメディアも、両陛下の誠実なお人柄がいかに訪問国の人びとを魅了したか、感銘を与えたか、という〝お人柄報道〟に多くを割く」。「日本では両陛下の外国訪問や、外国の賓客を迎えた宮中晩餐会の話は、新聞の社会面に掲載される。しかし外国では政治面で扱われる。この一事に、皇室外交をどういう文脈で見ているか、日本と外国の違いが如実に表れている」。

 本書の目的は、つぎのようにまとめられている。「断片的にしか伝えられない皇室外交だが、足を踏み入れるとそこには人間味溢れる感情の交流とやり取りがあり、彩り豊かな人間模様が広がっている。またそういうものが国と国の関係や、国際社会を動かしているのも、これまた事実なのである」。「皇室外交とは何なのか、またそれが果たしてきた役割を知ってもらうために、これからその深層に分け入って行きたいと思う」。

 本書は、はじめに、全7章、おわりに、からなる。第1章「宮中晩餐会では「だれに対しても最高のものを」がルール」で、「フランス料理にフランスワインを正餐と位置づける宮内庁」の「ルール」が語られた後、第2~5章でヨーロッパでの「国際親善」の逸話が語られている。第2章「昭和と平成、皇室2代にわたるミッテランとの友好」、第4章「美智子妃とヴァレリーさんの頬ずり フランス3代の大統領と皇室」でフランス大統領との「お人柄」交流が語られているが、第3章と第5章は第6章へと続く内容になっている。

 第3章「皇室外交の要としてのおことば オランダの反日感情を融和した両陛下」、第5章「英王室と皇室の長く深い縁 戦中、戦後の怨讐を超えて」で、戦後「皇室外交」の目的のひとつが、戦争で敵国となった国ぐにの反日感情を和らげることにあることがわかる。その延長線上として、第6章「終わりなき「慰霊の旅」 サイパン、パラオ、フィリピン」があると考えることができる。著者は、第6章の最後の見出し「慰霊の旅はなぜ続くのか」にたいして、つぎのように答えている。「天皇、皇后の慰霊が、往々にして政治や外交的な儀礼を超えた哲学や宗教の次元にあるように思えるのは、自らもその責めを生涯引き受けるというその姿勢からではないか」。また、別のところで、つぎのように説明している。「天皇は父・昭和天皇の名前で始められた戦争の責任の重荷を生まれながらに背負い、戦争によってこじれた関係を生涯かけて立て直そうと献身しておられる」。

 最後の章、第7章「国際政治に寄せる両陛下の関心 歌に込められたその思い」では、「なぜ国際政治への関心が高い?」にたいして、「そこには日本の国益への考慮、政治・外交的計算が入っている」からであると、著者は答えている。ということは、われわれ国民は、「お人柄報道」に惑わされることなく、皇室の言動に注意を払い、「国益」との関係を考えなければならないということになる。

 そして、「おわりに」には、つぎのような特徴があると述べている。「大統領や首相らの首脳外交はもちろん、欧州各国の王室が繰り広げる王室外交とも違う。パフォーマンスもハッタリもなく、あるのは天皇、皇后の人間力とでも言うべきものだが、その静かで、ジワリと影響力を浸透させる皇室外交に、日本では語られない新しい側面を見出した」。「パフォーマンスもハッタリもなく」と書かれているが、本書で充分天皇の「パフォーマンス」を楽しむことができたような気がした。

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