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2017年10月03日

『東南アジア地域研究入門 3政治』山本信人監修・編著(慶應義塾大学出版部)

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 東南アジア地域研究は、「アメリカで産声をあげ、70年あまりの時が経った。日本でも1960年代から、東南アジア地域研究専門の研究機関が創設され、大学での研究・教育の一環として制度化されたため、半世紀以上の歴史をもつ」。「研究領域としての市民権を獲得している」が、「東南アジア地域研究は確立された学問領域(ディシプリン)かと問われると、いささか心もとない。むしろ東南アジア地域研究の独自の理論体系は見当たらないし、東南アジア地域研究としての普遍的な理論体系は存在しない」という。本書を読めば、「東南アジア地域研究はどこからきて、どこへ行くのか」わかるというのか?

 3巻本の本シリーズの監修者の山本信人は、その特徴をつぎのように説明している。「東南アジア地域研究は学際的であるということもあるが、まさにそれが東南アジア地域研究の特徴であり、それの抱える課題でもある」。「研究者は特定の学問領域を習得し、その理論や方法論を駆使しながら「東南アジア地域」に対峙する。東南アジア地域研究が学問領域ではないために、東南アジア地域を題材として、そこにある特徴や課題を掘り起こして、理解し分析し解釈する。そのために東南アジア地域研究は、時代ごとにあるいは課題ごとに変容を遂げてきている。そこから東南アジア地域研究的な研究の作法や課題設定も生まれてきた」。

 その東南アジア地域研究の日本での研究は、「世界的な水準を誇っている」が、これまで刊行されたシリーズには、「決定的な共通点があった。いずれの場合も当時の日本での東南アジア研究の到達点を提示すること、あるいは執筆者の考える研究の最前線を紹介することに主眼が置かれていたために、東南アジア地域研究の研究史あるいは学説史という観点が欠如していたことである」。

 「そこで本シリーズでは、これまでとは異なる視点から東南アジア地域研究を紹介する。すなわち、東南アジア地域研究の見取り図の提示である。いかなる研究も、現実の政治・社会・経済状況やその構造、学問領域での時々の支配的なあるいは流行の理論から自由ではない。特定の時代に生まれた研究は時代的な拘束を受ける。このような当たり前の研究の奇跡を位置づけることで、現在の研究がいかに現在的であり、先進的あるいは独創的であるかもわかる」。

 本シリーズが、これまでのものと大きく違うところは、それぞれ論考の巻末の「引用・参考文献」である。基本的な日本語文献に、それをはるか上まわる英語文献が並べられている。なかには、英語文献のみのものもある。その英語文献には、日本人が書いたものも含まれている。このことは、東南アジア地域研究が社会科学を基本に英語で議論する分野になったことを示している。「日本の東南アジア地域研究は世界的水準を誇っている」が、英語で発表していないために、世界的にはあまり知られていないというこれまでのシリーズの時代とは明らかに違う。

 日本人東南アジア地域研究者は、おもな英語文献の理解のうえに、日本人研究者の「世界水準を誇っている」ものを読むことができるのだから、鬼に金棒である、と喜んでいいのかという疑問が出てくる。これまでは日本人も東南アジア出身の研究者も、アメリカやオーストラリアなどで博士号を取得した者が、東南アジア地域研究をリードしてきた。しかし、東南アジアの大学でも英語教育がさかんになってきている今日、「土着」の研究者を含むさまざまなバックグラウンドをもつ者がリードするようになるだろう。そのとき、「東南アジア地域研究は学問領域ではない」ために、変わってくるものがあるのだろうか。外国語(英語)で自分の国や社会を学び・研究することで、客観性は出てくるだろう。だが、果たして主体性は維持できるのだろうか。ASEAN社会文化共同体の成立によってASEAN学が発展し、ASEAN共通の学風が生まれ、育つのだろうか。

 これまでのシリーズは、日本人を読者として想定してきた。本シリーズは、日本人だけでなく、外国人にも通用する内容になっている。東南アジア地域研究がコスモポリタンな学問領域になり、平準化が進むと、東南アジア地域研究の特色である「東南アジア地域を題材として、そこにある特徴や課題を掘り起こして、理解し分析し解釈する」おもしろさが薄らいでくるような気がする。まさに「東南アジア地域研究はどこへ行くのか」を考えさせられる入門書になっている。

 これまでにない研究史・学説史で、頭のなかが整理できて役に立った。監修者、各巻の編集者、各執筆者にお礼を申しあげる。

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