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2017年08月29日

『鄭成功-南海を支配した一族』奈良修一(山川出版社)

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 「17世紀は、世界的に海外貿易がさかんになった時代である。ヨーロッパでは大航海時代のスペイン・ポルトガルに代わりイギリス・オランダが勢力を伸ばしてきた。東アジアにおいても日本や明の商人が活躍した。なかでも鄭芝龍・鄭成功父子は最大の勢力を誇り、この地域の貿易をリードした。とくに息子の鄭成功は、最後まで明朝に忠義をつくし、オランダ東インド会社を台湾から追い出したことで有名である。彼の死後、息子鄭経も父の意志を引き継ぎ、清朝に対して矛をおさめず、さらに台湾の開発に寄与した。本書は、この鄭氏一族の歴史を概観したものである」。

 そして、本書は、つぎのパラグラフで終わっている。「この時代の海商は、自分の利益のためならば所属を変えることは当たり前だった。父の鄭芝龍も、「海賊」から招安を受けて明の役職をえて、さらに南明政権から高位をえながらも簡単に清に降伏している。最後まで筋をとおした鄭成功、鄭経はこの時代ではめずらしい存在といえよう。さらには南京まで攻め込み、台湾のオランダ勢力を駆逐した事実は、清朝・日本・中華民国・中華人民共和国すべてで、鄭成功が英雄とたたえられるに十分なことといえよう」。

 鄭氏一族は、5頁の地図にあるように、ユーラシア大陸の東の海を舞台に活躍した人びとである。東シナ海を中心に語られ、中国の明から清への王朝交代期に大陸の覇権争いに巻き込まれ、「忠義心に篤い人物」として英雄視される。日本史でも、時代の転換期に「海賊」が活躍する。歴史は、文献を残した陸の支配者を中心に語られる。海域を主体性をもって生活圏とした人びとの歴史は、鄭氏一族のように陸に介入して文献に残った者以外はあまり語られない。だからこそ、鄭氏一族の歴史を語る意義がある。

 国境で分断された近代国民国家の時代と違い、グローバル化のなかで東シナ海という生活圏が見えてきた。鄭氏一族が活躍した時代は、東シナ海という内海を中心とした生活圏があった。近代国民国家が国境を厳格に「取り締まらない」ときも、生活圏の中心としての海が浮きあがってくる。陸と違い、重いものや壊れやすいものも、長距離を運ぶことができる。鄭氏が戦略に使った海を、グローバル化の時代にも使うことができる。台湾や沖縄はその拠点となる。鄭氏一族を「忠義」だけでなく、現代の視点で蘇らせることができる。

 本シリーズ「世界史リブレット 人」には「巻頭言」はなく、ホームページを見ても本シリーズの趣旨などはなにもない。本書も、「鄭氏一族の歴史を概観した」だけなのか。歴史、なかでも外国史が多くを占める世界史を学ぶという意味がどういうことなのか、わからない。

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