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2017年07月04日

『中国のフロンティア-揺れ動く境界から考える』川島真(岩波書店)

中国のフロンティア-揺れ動く境界から考える →紀伊國屋ウェブストアで購入

 中国の歴史をみれば、皇帝のいる都を中心とした中華世界がイメージとして浮かぶ。周辺は、夷狄との戦いの場である。だが、グローバル化が進む今日、中心よりむしろフロンティアのほうが気になる。国境学というものが注目されるのも頷ける。

 本書は、中国外交史研究を専門とする著者、川島真が2008~13年にかけて、「アフリカ、東南アジア、あるいは金門島(きんもんとう)などに赴き、その現地の目線から中国を捉えようと記してきた文章をまとめたものである。この時期の中国は、まさに経済発展が進んで世界第二の経済大国へと躍進しつつあり、「中国の台頭」にいかに対処するかということが日本でも盛んに議論された時期でもあった」。

 本書の第1の課題は、「中国の対外政策が急速に展開し、まさに中国がそのフロンティアを拡大させていっている」ときに、「実態がどのようになっていたのかということとともに、果たして揺れ動いている中国の輪廓の外縁、まさにフロンティアという現場ではどのような事態が発生し、それが現地社会でいかに受け止められていたのか」、「これらの地域を訪問して見聞きしたこと、現地の人々、そして現地の中国人から聞き取った話を基礎として、現地社会から見た中国の動きを記すことにある」。

 第2の課題は、この「中国の対外政策が変容する時期」に、「果たしてどのような動きが、中国が「進出」していたとされるフロンティアで生じていたのか、当時記した文章をもとに、この変化の過程をいま一度振り返り、中国の対外政策の変容過程を再度考察する」ことである。

 「中国の世界進出に警鐘を鳴らすとか、その脅威を指摘する」論調があるなかで、著者は「むしろ、中国のフロンティアに立つとともに、中国の進出を受けているとされる、その進出の対象や、あるいは、そこにある/いる中国や中国からきた人々に寄り添いながら中国の姿を見る、という視点を可能な限りとっている」。その理由として、中国と世界秩序との関係をつぎの3つにまとめている。

 「第一に、確かに中国はグローバル化の下で経済発展をしてきたのであり、既存の秩序の受益者でもあるのだが、それは中国が自らにとって有利、あるいは利益を得られると感じる秩序や枠組みに対しては、反対しないということである。核をめぐるNPT(核兵器不拡散条約)体制、東アジアなら六者協議などがそれにあたる」。

 「第二に、中国は自らを発展途上国と位置付け、既存の秩序は基本的に西側先進国が作ってきたと考えている。だからこそ、中国は既存の秩序、枠組みの中に入りながら、自らを発展途上国である「修正主義者」と位置付け、(中国から見て)不公正、不公平な部分を修正していく、としている。そして、そのためにも中国系のスタッフを多く国際機関や組織に戦略的に送り込み、ルール作りの場、修正の場に立ち会わせようとしているのだ。WTO(世界貿易機関)、IMF(国際通貨基金)、WHO(世界保健機関)、ADB(アジア開発銀行)など、さまざまな場で中国はこのように振る舞っているのであろう」。

 「第三に、中国は特に自らに不利になると認識している秩序や枠組みに対しては、否定的な態度をとるか、あるいはそこに加わろうとはしないだろう。OECD(経済協力開発機構)、G7、そして環境問題の枠組みなどがそれである」。

 本書は、序章「フロンティアから中国を考える」、4部全10章と終章「運動体としての中国をとらまえること」からなる。第Ⅰ~Ⅱ部でアフリカ、第Ⅲ部で東南アジア、第Ⅳ部で金門島を扱っている。

 著者は、終章で「フロンティアに拘ったのは、中国政府による中国語の言説、また中国の世界進出をめぐる英語や日本語による批判的な言説の双方に対して疑義を有していたからである」と述べ、つぎのような問題提起をして「終章」を結んでいる。「「中国」とは中国を中国たらしめる運動体であると見ることもできる。そうした意味で本書はその運動体の活動の輪廓の一部を切り取ろうとしたものだともいえる。そこでは、北京という、「中国」の中心の言説とも異なる、また中国を外から見る外国メディアの視線とも異なる状況が見られるのではないか、そしてそのフロンティアにこそ中国の「揺れ動く」輪廓が立ち現れているのではないか、というのが本書の問題提起である」。

 著者は、「本書は中国の世界進出に警鐘を鳴らすとか、その脅威を指摘するものではない」と序章の最後のほうで述べている。この「中国」を「アメリカ合衆国」と置き換えると、大国の姿が現れてくるだろう。ただ中国とアメリカ合衆国との違いは、中国は「自らを発展途上国である」と位置づけていることである。中国が援助の世界などでも、影響力を発揮してきているのは、「途上国から途上国への援助というスタイルをとっている」からである。中国が中華世界の中心ではない視点をもっているという点にも、注意をする必要があるだろう。

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