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2017年05月09日

『靖国神社と歴史教育-靖国・遊就館フィールドノート』東アジア教育文化学会企画、又吉盛清・君塚仁彦・黒尾和久・大森直樹編(明石書店)

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 本書は、「靖国神社が歴史のなかで果たしてきた役割と、人間が人間の命を大切に生きていくこと。両者の間には、どのような関係があったのか」という課題について、2005年から13年に「東アジア教育文化学会の活動としてとりくんできた内容を、三本の柱でまとめたものである」。

 本書は3部からなる。「Ⅰ 東京の戦争遺跡の検証-巣鴨プリズン跡・北の丸公園・靖国神社-」は、「本学会が又吉盛清を案内人として二〇〇六年一〇月七日におこなったフィールドワーク「東京の戦争遺跡」について、その詳細な記録を黒尾和久と君塚仁彦による追加調査を得てまとめたものだ」。

 「Ⅱ 靖国教育の検証」は、「二〇〇八年に、一部の国会議員と政府と教育委員会の連携によって、靖国神社を利用した教育(靖国教育)を復活させる動きが着手されている事実について(本書一〇三~一〇五頁)、その認識を深めるために三本の論考をまとめたものだ」。

 「Ⅲ 東アジアの靖国問題」は、靖国問題を東アジアにおける各地の視点から検証するために四本の論考を収録したものだ」。まず、「又吉盛清は「琉球・沖縄から見た「靖国問題」」は、日本の侵略戦争と植民地支配に動員された沖縄人が、命を失い、靖国神社に合祀され、次の戦争を準備するために利用されてきた歴史事実を、「沖縄人の「靖国化」」という概念によって分析している」。

 つぎに、「朴晋雨(パクジンウ)「韓国から見た靖国問題」は、A級戦犯の合祀後も沈黙していた韓国が、なぜ、一九八五年から靖国神社を批判するようになったか。その政治的な背景を整理することを通じて、歴史的な事実をふまえて靖国問題を解決する必要について論じている」。

 3つめの「王智新(ワンツーシン)「中国から見た靖国問題」は、二〇〇一年以降の小泉首相の靖国参拝に焦点を当てて、その行為と論理の分析を行ったものだが、そのことと併せて、中国人が、靖国神社の本質を、一九〇四~〇五年の日露戦争直後から見抜いていた事実についても論じている」。

 最後に、「君塚仁彦「近代日本の戦争・植民地記憶をめぐる管理と再編制」が、侵略戦争と植民地支配に関する歴史認識の問題点を、東京にある一六に及ぶ戦争博物館・施設から論じている」。

 「靖国問題」とは、「韓国から見た靖国神社」の冒頭で、つぎのように述べられていることにつきる。「靖国神社の問題は、日本の国内的な問題だけでなく、韓国と台湾のように植民地支配を受けた国や中国のように侵略を受けた国との歴史認識をめぐる問題が複雑に絡んでいる。このように複雑な靖国問題の根源的な要因は、近代日本において国家(天皇)に対する忠誠や犠牲を強要し、侵略戦争に動員された戦没者を顕彰する役割を果たしていた靖国神社が、敗戦後にも廃止されずに存続した事実にあるといえる」。

 本書を通じて「靖国問題」も「歴史認識問題」も、原因と解決できない理由をわかっていることがわかる。つまり、すでに表面化してから30年以上にわたって知恵を出しあっても、解決できなかったということは、近い将来の解決は望めないということだ。ならば、解決できないことを前提に、どう紛争化しないようにすればいいのかを考えるしかない。これまでとは、少し違った発想が必要だ。

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