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2017年05月02日

『フィリピン-急成長する若き「大国」』井出穣治(中公新書)

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 「フィリピンは高度成長国に変貌を遂げた。2050年を展望した場合、フィリピンはアジアで最も将来性がある希望の星だ」。本書は、著者井出穣治が、「財務大臣や中央銀行総裁といったフィリピンの政策当局者から何度も聞いた」このフレーズではじまる。

 本書のタイトルやこのフレーズを見て、いまだ「治安が悪くて貧しい国」という漠然としたイメージをもっている日本人は、意外に思うことだろう。著者の執筆意図は、「「アジアの病人」と呼ばれていたフィリピンに対する負のイメージを捨て、新しい視点でフィリピンを見直さなければならない」という点にあり、「「アジアの希望の星」とまで呼ばれるようになったフィリピンの真の姿を知って欲しい、フィリピンが大きな潜在力を持っていることを知って欲しい」という思いから本書を構想した。

 もうひとつ、著者が構想した理由は、「現在の地域研究のあり方に対する」問題提起からで、「わが国の地域研究では、経済、政治、歴史と分野が専門分化する色彩が強まっており、結果として、特定の国や地域を大局的な観点で語った書籍が少なく」、「個々の領域を統合し、ひとつの物語を作る努力を続ける必要があるのではないか」、「フィリピンの真の姿をしっかりと伝え」たいとの思いからである。

 「先進国、中国をはじめとする主要な新興国の経済成長のペースが鈍化するなど、外部環境が悪くなっている中で」、フィリピンは2010年以降、平均6%を上まわる経済成長を遂げ、「国の経済規模を示す名目GDPは、2000年時点の810億ドルから、2016年時点では3117億ドル(IMF予測値)と約4倍になり、急速にキャッチアップしている。1人当たりGDPについても、同時期に1055ドルから2991ドル(同予測値)と約3倍になっている」。

 フィリピンの「高度成長の源泉」は「常識とは異なる新しい経済成長のモデル」で、「サービス業と消費が主導」していることを、第2章でつぎのように説明している。まず、「フィリピンの経済成長は、製造業が主導する形で「東アジアの奇跡」を実現した東アジアの大半の国とは様相が異なる(略)。一国の経済発展のプロセスをみると、一般的には、「農林水産業→製造業→サービス業」の順に成長の牽引役が変わっていくことが多いが、フィリピンの場合は、製造業が発展するステップを踏まずに、サービス業が主導する形で高度成長を実現しており、ユニークな存在と言える」。

 つぎに、「GDPを需要項目別に分類し、経済活動が、消費、投資、輸出といった支出項目のうち何に支えられているのかを確認すると」、「フィリピン経済は、個人消費がGDP全体に占めるウエイトが70%程度と非常に高く、逆に投資のウエイトは20%程度と必ずしも高くない」ことがわかる。「近年の経済成長に関しても、6%程度の成長率に対して、個人消費の寄与度は4%程度となっており、個人消費が成長を牽引している。ただし、近年は民間の設備投資や建設投資も増加しており、以前に比べると、投資も成長を支える柱になっている」。

 本書は、楽観的に「フィリピンが高度成長国として離陸し、アジアの「希望の星」として着実に歩みを進めている」ことを述べているだけでなく、つぎの「フィリピンが直面している課題にも目を向け」ている。「①超高層ビルとスラム街のコントラストに代表される、この国の貧富の差の問題、②マニラ首都圏の深刻な交通渋滞に代表される、この国のインフラ不足の問題など、フィリピン経済は多くの構造的な問題を抱えている。実は、これらの構造的な問題の根源には、20世紀半ばまで続いた約400年間の植民地時代に作られた制度が大きく影響している。本書では、これらの負の遺産についても検証する」。

 そして、「歴史的な洞察に加えて、フィリピンの現在の立ち位置を知り、将来を展望する」ために、「①この国の民主主義をどう考えるのか、②この国を取り巻く地政学の問題をどう考えるのか」を、つぎのように論じている。「フィリピンの政治というと、古くは、マルコス独裁政権の印象が強いかもしれない。また、最近では、2016年6月に就任したドゥテルテ大統領のもとで、麻薬犯罪者の超法規的殺人が行われている国とのイメージが強く、強権的な政治を連想するかもしれない。しかし、歴史を紐解くと、実はフィリピンは、アジアの中では非常に早い段階で、民主主義が制度として定着した国である。その意味で、フィリピンの民主主義には先進的な面があるとも言える」。

 さらに、「地政学に関して言えば、フィリピンは1946年の独立後、同盟国として米国のアジア外交の要衝に位置付けられてきたが、近年は、中国の台頭が著しい中で、外交上のバランスの取り方に腐心している。南シナ海を巡る中国との領有権問題はその最たる例であり、今後も米国と中国の狭間でどう立ち回っていくのか、という問題に直面し続ける可能性が高い」。「こうした民主主義や地政学の問題についても、第二次世界大戦後の歴史を振り返った上で、先行きを展望」している。

 最後に、「日本にとってフィリピンは極めて重要な存在であり、同国との関係を重視する意義は大きい」ことから、「本書の締め括りとして、日本とフィリピンの関係を考え」、「片務的な関係から互恵的な関係へ」なることを期待して本書を閉じている。

 日本とフィリピンとの関係は、この「片務的な関係から互恵的な関係へ」が長年の課題で、ヒトもモノも交流があるのに、互いが尊敬しあう実りある関係が蓄積しないことに関係者は悩んできた。著者のような「フィリピンの真の姿をしっかり伝え」たいという思いが、本書を通じていまだ「治安が悪くて貧しい国」というイメージをもっている日本人に伝わることを願っている。

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