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2016年12月13日

『入門 国境学-領土、主権、イデオロギー』岩下明裕(中公新書)

入門 国境学-領土、主権、イデオロギー →紀伊國屋ウェブストアで購入

 「「領土という病」を克服できるか」と帯にある。「領土という病」については、著者岩下明裕の編著『領土という病-国境ナショナリズムへの処方箋』(北海道大学出版会、2014年)に詳しく、本書の内容をより知りたければ、著者がここ数年間に精力的に書いてきた単行本・論文を読めばいいようだ。本書は、それらをまとめてわかりやすく書いて、新しい学問である「国境学」を紹介したもので、表紙見返しにつぎのようにまとめてある。

 「北方領土、尖閣諸島、竹島という日本が抱える三つの「領土問題」。その解決のヒントになるのが国境学・境界研究(ボーダースタディーズ)である。欧州を揺るがす移民問題、国境防衛にとどまらないサイバー時代の安全保障、境界地域の経済振興など、国境学の応用範囲は幅広い。四千キロに及ぶ中露国境の踏破、北方領土問題への提言など最前線で活躍してきた著者が、欧米の動向や自身の実践を踏まえて解説する入門書」。

 「国境学」とはなにか。著者は「はしがき-「日本の領土」、何が間違っているのか」で、つぎのように説明している。「本書が国境を学として論じる際に依拠するボーダースタディーズ、つまり境界研究は、一つの空間がもつさまざまな彩りをその境界が重なりあう場所を通じて描きだすことで、単色に塗り込められた空間がそうではないこと、一つひとつの色合いをもつことを復元する。そして、その色合いはさまざまにまじりあい、交錯する。大きな空間が境界で分けられ、そして境界が消え、また折り重なる。境界は動くだけでなく、線で引かれた空間はグラデーションとして連なり、地域を構成する。これらの色合いを束ね直すことでしか、社会や国家は生まれ変われない」。

 だから、著者は「「固有の領土」など本来、存在しない」といい、「境界はいつでも変わる。境界づけられた空間、つまり領土は広がることもある。そして縮むことも」当然あると考える。したがって、「はしがき」の副題「「日本の領土」、何が間違っているのか」の答えは、つぎのようになる。「現存する境界がそのまま永久に続くと思い込み、それをただ「固有の領土」と子供たちに教えれば十分だ、といった姿勢が続くかぎり、日本の国境や領土の将来は危うい。いま求められているのは、領土とは何か、国境をどう考えるか、世界の事例を学び、日本という「くにのかたち」のあり方について身体性をもって考えてみることだ。領土や国境を「毅然として守れ」と声を荒らげることではない。学ぶべきことは、領土や国境での人々の具体的な生活であり、境界に対する関心の持ち方と涵養(かんよう)である」。

 人びとの生活を中心に考えるからこそ、ボーダースタディーズが重要になる。「ボーダースタディーズという言葉は日本ではまだあまりなじみがない。本書タイトルは『入門 国境学』と掲げてあるが、国境こそ境界(ボーダー)を考える最も重要かつ理解しやすいテーマであるのがその理由である。境界(ボーダー)という概念は、国境よりも広く深い。そして境界(ボーダー)とは何かを考えずして、国境をとらえることもできない」。

 本書は、「はしがき」に加えて「序章 世界の境界・国境を比較する」があり、全7章、終章、補論、「あとがき」からなる。「第1章 境界の現場を歩く」の最後に「本書の道案内」があり、章ごとの内容と章間の関係、章の読み方の順番などが示唆されている。以下、「第2章 ボーダースタディーズとは何か」「第3章 国境・誰がこの線を引いたのか」「第4章 領土問題の構築を解体する」「第5章 透過性と分断から地域を考える」「第6章 国際関係をボーダーから読み換える」「第7章 日本の境界地域をデザインする」「終章 国境のなかに光を見る」、「補論 新しい人文・社会系の学問をいかに創造するか」とつづく。

 そして、著者は「国境学」の意義のひとつを、つぎのようにボーダーツーリズムに見出している。「ボーダーツーリズムはまた平和創造に直結する。そもそも観光業そのものが平和産業であり、軍事対立下では一種のプロパガンダ、あるいはダークなものとしてしか成立しない。緊張下であっても平和に貢献した事例としては、パレスティナによる遺跡ツアーでイスラエルの障壁づくりを抑止した事例(略)、DMZをツーリズムで結ぶことで南北朝鮮の緊張緩和の一助とした試みがある。ボーダーが紛争と結びつきやすいかぎり、それがダークツーリズム的な側面をもつことは否定できない」。「ダークをつきぬけて、何らかの光りを見出す。ボーダーツーリズムの可能性はまだ見出されたばかりであり、今後さまざまな展望が広がっていくだろう」。

 首都中心の中央集権化された近代国家間の国際関係から、グローバル化のなかで個々に生活する人びとを中心とした社会に変わろうとするいま、辺境と考えられた国境がゲートウエイとして注目されてきていることが、本書からわかる。だが、なお国家が排他的に支配し、守ろうとする「領土という病」の現実は残っている。著者は「国境学」者として、これまでさまざまな提言をおこなっている。提言する意味がなくなったとき、「国境学」は消滅する。

 ロシア連邦のプーチン大統領が今週12月15日、16日に来日する。北方領土問題があるため、日本国と1991年に崩壊したソビエト連邦の継承国ロシア連邦とのあいだで平和条約が締結されず、日本とロシア連邦とはいまだ戦争中ということになるが、既成事実として日本国とロシア連邦は平和条約を締結した国ぐにとなんら変わりない国同士の関係にある。領土問題に固執するかぎり、人びとの生活からボーダーは消えない。だが、領土問題というものがあたかもないことのように人びとの生活を考えれば、事実上領土問題はなくなる。まずはすでに一部認められている漁業活動やビザなし渡航など、ボーダーを消すことから考えればいい。

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