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2016年11月08日

『東アジア 和解への道-歴史問題から地域安全保障へ』天児慧・李鐘元編(岩波書店)

東アジア 和解への道-歴史問題から地域安全保障へ →紀伊國屋ウェブストアで購入

 本書は2つのシンポジウムの報告のなかから、「本書のテーマに沿ってとくに重要だと思われる報告を文章にし、選択し、改めて修正・加筆、編集し、さらに必要と思われるイシューに関しては新たに執筆を依頼するなどし、全体の構成を行った」ものである。

 本書は、「はじめに」、2部5章20報告、「おわりに」からなる。全体の概要は、表紙見返しにつぎのようにまとめられている。「なぜ東アジア諸国は対立と不信と憎悪のスパイラルから抜け出せないのか。信頼と協力の枠組みはどうすれば構築できるのか」。「第一部では「歴史和解」問題をめぐり、ヨーロッパの戦後和解の事例を参照しながら、克服すべき課題や解決に向けての論点や筋道を明確化し、いかに過去と向きあうかを考える」。「第二部では東アジアの現在と未来に目を向けて、何が起こっているのか、共生に向けてどのような枠組みを構築すればいいのか、協調的安全保障のありかたを考える。そのさい、国家よりも人間の安全に焦点を合わせて、国家間対立を超えた「人間の安全保障」を地域共通のビジョンとする」。「日中韓の知識人たちによる共同討議の記録」。

 本書の2つのキーワード、「歴史和解」と「地域安全保障」について、本書で展開された20の報告に基づいて、編者のひとり李鐘元は、「おわりに」で、それぞれつぎのようにまとめている。「「和解」という概念は、新しい国づくりの要請に応じて誕生し、広い意味で用いられている。学問的な議論や分析は始まったばかりで、明確な定義に基づく理論化はこれからの課題である。まだ曖昧さが残る概念だが、以上のような世界的な取り組みから、「国際的和解」、すなわち国家間における過去の問題への取り組みとして三つの点である種の新しさを含んでいるといえよう。第一に、双方向性の強調である。和解という概念自体に「互いに近寄る」という意味が含まれている。加害者への一方的な断罪ではなく、その謝罪を踏まえ、被害者が許しを与え、受け入れる行為が強調される。第二に、抑圧構造の重層性への注目である。加害者と被害者という単純な二分法を超えて、加害集団(国)の中にも被害者があり、被害集団(国)の中にも中間的な加害者が存在する構造の複雑さに対する、より現実的な認識が強調される。第三に、未来志向、すなわち過去の問題を克服し、社会共同体として未来を築くことが重視される。上の二つの特徴も共同体の再建という実際的な目標から生まれたものといってよいだろう」。

 この一般的な「国際的和解」の考えを、日中韓の現状からどう考えればいいのだろうか、つづけてつぎのように述べている。「日中韓の間には過去の克服をめぐって、それぞれ異なるアプローチが対立しているのも事実である。水平的な関係性が背景にあり、「ヨーロッパ統合」という未来の共有をめざしてきた独仏関係では「和解」がキーワードとして定着している。しかし、東アジアの日中韓関係では、水平性、双方向性、重層性を主眼とする「和解」をめぐって様々な議論が存在する。日中韓の間の歴史問題は、その多くが垂直的な権力関係の構図の下で生じ、国家によって行われた行為が中心をなしている。その克服のプロセスは、水平的かつ双方向的な「和解」に一足飛びに進められるものではなく、垂直的で国家に由来する問題から始め、段階的に取り組むことが必要かも知れない」。  つぎに、「地域安全保障」については、つぎのようにまず現状を述べ、つぎに今後の課題をまとめている。「冷戦終結後には、国家間の戦争より、国境を越える地球的問題への共同対応が課題となり、「協調的安全保障」が提唱された。その延長線上で、国家より人間、すなわち一人ひとりの人間の安全に焦点をあわせるべきという「人間の安全保障」が国連によって提示され、日本外交の柱にもなっている」。

 今後の課題は、「地域協力のモデルをさらに発展させ、いかに軍事的争点をめぐる伝統的な安全保障分野の協力に結び付けるかであろう。社会や経済分野の機能的協力が安全保障を含めた政治協力を促進する「スピルオーバー」(「溢れ出し」)効果は容易に実現するものではない。しかし、政治・外交的な摩擦とは裏腹に、相互依存がますます深化している東アジア、とりわけ日中韓関係においては、具体的な課題と、国家以外の主体、様々な市民社会の働きに注目する「人間の安全保障」の枠組みが地域共通のビジョンになりうる。すくなくとも安全保障が軍事と同義語ではないことを認識し、国家間の対立をこえた協調のイメージを具体化することにつながるであろう。本書は、以上のような視点から東アジア、とりわけ日中韓関係のあり方を捉え直し、未来を展望しようとした議論の産物である」。

 本書の20の報告から、今すぐにでも起こりそうなことへの対処から、かなりの年月が必要だが一度関係が築かれると安定的な基盤になるものまで、さまざまなレベルで東アジア諸国間の信頼と協力のための試みがされていることがわかる。それがうまくいっていないのは、軍事力をともなう近代的国家間の安全保障が前面に出て、グローバルな「人間の安全保障」が充分に機能していないからだろう。国家間の問題が生じても、それに影響されない「人間の安全保障」を確立するためには、日中韓を中心とする東アジアだけでなく、さらに大きな地域的枠組みや人のつながりが重要になってくる。本書は、2つのシンポジウムでの報告が基になっている。ここまでこじれた関係を修復するには、本書のように論点を整理し、筋道を探るという地道な作業を積み重ねていくしかないだろう。

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