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2016年10月18日

『海洋アジアvs.大陸アジア-日本の国家戦略を考える-』白石隆(ミネルヴァ書房)

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 便利な本である。「日本の国家戦略を考える」ための基礎データに基づきながら、わかりやすく説明してある。本書は、2014年5~11月に出版社でおこなわれた4回のセミナーを大幅に加筆訂正したもので、2015年8月末を「現状」としている。基礎データをこれだけ集めて整理するだけでもたいへんであり、「現状」が刻々と変わるなかで「現状」分析することは並大抵ではない。出版できたのは、著者、白石隆の「歴史の重みをよくよく考慮しながら、国際政治・政治経済の分析をしてみたい」という基本姿勢があるからだろう。

 本書の概要は、表紙カバー見返しにつぎのように記されている。「経済規模がG7を上回り、アジアが「世界の中心」となりつつある今、アメリカは、アジア回帰へと舵を切った。巨大国家・中国を中心とする大陸連携の動きのなかで、現在の「力の均衡」を担保しつつ、通商・安全保障の新秩序を創ることはできるのか。アジアの地政学的な状況把握から、東南アジア・ASEAN諸国の現状を詳細に分析し、戦後七〇年を経た日本の国家戦略を探る」。そして、出版社のホームページには、2つの[ここがポイント]「◎ これを読めば今のニュースの見方・見え方が変わる。◎ 戦後70年を迎えた今、海洋アジア対大陸アジアの図式のなかで日本の国家戦略を探る」が掲げられている。

 本書は、序章と4回のセミナーを1回ずつ1章とした4章からなる。その内容は、つぎのようにまとめられて、セミナー参加者に話しかけている。「第一回目は長期、長期といっても一〇~一五年、せいぜい二〇三〇年くらいまでの時間の幅ですが、この幅で、東アジア/アジア太平洋/インド・太平洋地域の国際関係をどう考えているかをお話ししたいと思います。そのあと第二回からは、現状分析、あるいは現状と展望の話となります。ただし、長期の趨勢といい、現状と展望といっても、あくまでこの地域の歴史の文脈の中で考えるわけで、適時、過去に遡ります。しかし、そのときにも、あまり遠い過去まで遡ることはせず、せいぜい二五~三〇年、つまり、一九八〇年代半ば以降くらいのところで考えるようにします。また、「東アジア/アジア太平洋/インド・太平洋」という地域の枠組みについて、なぜこういう少々もって回った言い方をするかもふくめて、いずれ行論の中で説明しますが、基本的には、太平洋からインド洋に至るこの広大な地域の国際関係を理解する上で、地域の枠組みを固定的に考えない方がよい、その方がこの地域の国際関係のダイナミックスがよくわかるということです」。

 著者の「歴史の重みをよくよく考慮しながら」という姿勢は、「序章 なにが問題なのか」によく現れている。最初の3つの見出し「「一九世紀文明」」「米ソ二極体制という二〇世紀システム」「グローバル・ガバナンスと世界の趨勢」で、今日につづく趨勢が理解できる。そして、4つめの見出し「世界を理解するための社会科学とは」で、方法論が示されている。

 1970年代に留学先のアメリカで国際政治学を学んだ著者は、「パラダイムとして、リアリズム、リベラリズム、構築主義がある」という基本にたいして、「世の中、こんなパラダイムでそんなにきれいに分析できるわけがないという確信」をもつようになり、「序章」をつぎのようなことばで締めくくっている。「しかし、制度を動かすのは人です。したがって、構造と人、英語で言えば、structureとagencyの関係をどう考えるかという問題は、特に明示的に議論するわけではありませんが、特に現状分析においては、よくよく注意しておく必要があります」。

 帯には、「アメリカを中心とする海洋同盟と中国を中心とする大陸連携、その大きなうねりのなかで、日本が進むべき道とは何か」という宣伝文句があるが、本書で「海洋」「大陸」が対概念として詳しく論じられているわけではない。ここで使われる「海洋」も、人類学、社会学、歴史学とは違う戦略的な意味で使われている。著者のいう「制度を動かすのは人です」を考えると、「海洋」を動かすのはどのような人で、「大陸」を動かすのはどのような人であるのか、興味がわいてくる。

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