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2016年10月04日

『越境するコモンズ-資源共有の思想をまなぶ』秋道智彌(臨川書店)

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 「コモンズを通して地球史を見つめつづけてきた著者の最新成果にして集大成!」と帯にある。著者、秋道智彌は、本書を「既刊の『なわばりの文化史』や、わたし自身が中心的にかかわった『日本の環境思想』、『日本のコモンズ思想』に依拠して、コモンズとなわばりに関する思想を論じる総合的研究」と位置づけ、「先行研究と実地調査を踏まえ、コモンズとなわばりについての現代的な意義をあきらかにする学際的な試みでもある」と述べている。

 本書の特徴のひとつは、序章「コモンズとなわばりの思想」で、5節にわたって「先行研究を踏まえてその研究の意義をあきらかにして」いることである。60頁を超える「序章」は第Ⅰ部として論ずるだけの質と量があり、「コモンズとなわばりをキー概念として自然と人間、自然と文化のかかわりを包括的に分析するためにはどのような方法があるのか」、その前提となる基本が「遺伝学、分類学、生態学、地理学、民族学、地質学、社会学などを組み合わせた統合的な視野からの分析」にあるとして整理している。

 第Ⅱ部にあたる第1~6章は、著者の長年にわたる実地調査に基づいている。各章はきれいに5節づつに整理されている。「序章」最後で、それぞれの章をつぎのようにまとめている。第1章「資源とコモンズ」では、「自然と文化を二元的にとらえる近代主義的な発想を超えて、資源利用におけるコモンズ的な枠組について位置づける」。第2章「保有となわばり」では、「資源へのアクセス権の検討から、保有に関するさまざまな事例を提示し、資源の特性に応じたコモンズとなわばりの存在を提示する」。第3章「自然とカミの世界」は、「超自然的な側面と人間との関係性を、山の神、アイヌの送り儀礼、生き物の霊性、森と海のカミ論として検討する」。第4章「震災復興とコモンズ」では、「東日本大震災を事例として、復興におけるコモンズ思想の重要性を指摘し、新しい復興論として提案する」。第5章「コモンズと循環」では、「生態系に着目して、循環と越境の視点からコモンズとなわばりの問題を検討する」。最終章の第6章「コモンズと歴史」では、「コモンズ論を人類史、あるいは文明の枠組で検討し、文明の生態史観をレビューする。さらに王権が土地や海面の保有に果たした役割について検討する」。

 そして、結論「地球時代のコモンズ」では、「本論で議論したもろもろの点をひとまず整理したうえで結論」を導くために、論点を5点にまとめている。「1.存在論と主体性論」「2.共有と私有の二元論」「3.分配をめぐる進化論」「4.アクセス権の三極モデルとその動態」は、「理論面での帰結であり、歴史を踏まえたコモンズとなわばり論である」。「5.共食とグローバル・コモンズ」は、「現代の食と水に関する応用問題」であるとし、「結論では、第4章と第5章をふまえた未来への提言とした」と述べ、「本論を地域や歴史を超えて、この分野に取り組む諸学の人びとのみならず広くコモンズと境界論を学びたい人びとへのメッセージとしたい」と、本書を結んでいる。

 36頁の及ぶ巻末の「文献」一覧から、日本語、英語、中国語で書かれた先行研究を中心に網羅的に把握したうえで「序章」が書かれ、実地調査の成果も古今東西を扱った文献に裏づけされたものであることがわかる。

 副題に「まなぶ」とあるとおり、本書は自己満足的な「集大成」ではなく、著者が読者とともに「まなび」、「コモンズを通して地球史」を発展させるための「覚書」である。しかし、それはたんなる「覚書」ではなく、2011年に発生した東日本大震災や本年4月の熊本地震などにたいして、自身の研究で培ったものを、どう実際に応用し役立てるか、提起することをも想定したものである。「自然と文化を包摂した観点から地域ごとに育まれ、地域で共有されてきた歴史と経験をローカル・コモンズ」として、「復興に資する思想的な基盤」とすることを考えたものである。

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