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2016年07月12日

『国際テロリズムハンドブック』安部川元伸(立花書房)

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 こんな本が、日本でも出版されている。英語ではもっとたくさんの本が出版され、もっと具体的な対策が書かれている。テロリズムは、もはや日常のなかに入ってきており、その対策が日本でも求められているということなのか。

 本書は、全10章と参考資料1~5からなる。まず、「第1章 テロリズム」では、テロリズムの定義からはじまる。だが、「国際的にはテロについて合意された定義は存在しない」という。著者安部川元伸は、各国がそれぞれ個別に定義したテロにもとづく「テロ対策法や刑法等」をまとめると、概ねつぎのようなことが指摘できると述べている。

 「第1に、目的について、公衆等を威嚇することや、政府等に対して何らかの行為を行うこと又は行わないことを強要すること、更には政治、宗教上の目的遂行がテロの要素として含意されている。第2に、主体について、あらゆる組織、あらゆる個人がなり得るとしているが、政府の定義であることから基本的に非国家主体が前提とされている。第3に、客体について、政府、民間、個人、財産などの所有物、社会インフラなどの公の秩序など、非政府・非軍事を含めたあらゆるものへの侵害、影響が想定されている。第4に、行為について、原則として暴力、破壊、脅迫等といった直接公衆等に向けられた不法行為に限定され、組織のための資金獲得や徴募活動などはテロそのものとはみなされていない。ちなみに、資金や徴募などの活動については、最近、テロ対策が強化される中、テロを支援する行為として、犯罪化されるなどの処置が講じられてきている。第5に、効果について、暴力や破壊という物理的な効果はもちろんであるが、それに留まらず、恐怖や脅迫といった心理的な効果を示唆している。テロは、目的達成の手段として、実際の物理的手段の行使そのものより、心理上の効果を狙った側面が強く際立っている」。

 以下、「第2章 テロリズムと歴史」「第3章 テロリズムと組織」「第4章 テロリズムと活動」「第5章 テロリズムとテロリスト」「第6章 テロリズムと地域」「第7章 テロリズムとテロ・ゲリラ事件」「第8章 テロリズムと日本」「第9章 テロリズムと対策」「第10章 テロリズムと関連する問題」とつづく。全体を見渡して、イスラームとの関係が深いことがわかる。資本主義対社会主義という冷戦が終わり、社会主義圏での市場化が進んで、新たな市場をイスラーム圏に求めた結果ということができるだろう。また、グローバル化が進んで国民国家という枠組みが希薄化したとき、ウンマというイスラーム共同体が「新たな」枠組みとして登場したということもできるかもしれない。国家単位で議論する国際連合の役割も、相対的に低下したといわざるをえない。だが、現在もっとも有効に機能しているのが、国際連合や各国のテロ対策であることも事実だろう。

 テロ対策の類型には、アンチテロリズム(テロリズムの防止)とカウンターテロリズム(対テロ攻撃)とがある。前者は、「テロを未然に防ぐことを目的とする行動のことであり、テロリストについての情報を収集し、あらゆる手段を用いてこれに対処すること等を意味」し、該当するものに「外交、経済制裁、情報収集活動」がある。後者は、「現在進行中のテロ活動への対応、あるいは既にテロリズムが発生してしまった後の対応と解釈され」、該当するものに「物的・人的防護の強化、出入国管理の強化、対テロ作戦部隊の創設」がある。

 2006年に国連総会で全会一致で採択された「国連グローバル・テロ対策戦略」の内容は、つぎの6項目からなっている。「①あらゆる形態のテロを非難し、テロ防止関連条約の締結、包括テロ防止条約交渉の妥結、国際テロ撲滅に関する全ての総会決議及び安保理決議の履行に努める」「②テロリストの安住の地をなくすため、「テロとの闘い」に完全協力する」「③テロとの闘いのための措置は、国連憲章、国際人道法、国際人権法を始めとする国際法上の義務に従わなければならないことを認識する」「④市民及び文明間の理解の促進並びに貧困撲滅及び持続可能な開発への取組により、テロの拡散に繋がる諸条件への対処措置を講じる」「⑤国連安保理テロ対策委員会(CTC)及び関連国際機関との協力を通じ、テロリズム防止及び闘いへの措置を講じる」「⑥関連国際機関及び同盟国との協力により、各種のテロ対処能力向上措置を講じると共に、同分野の国連の役割を強化する」。

 本書は、テロ対策ハンドブックではない。著者は、「はしがき」で「テロとの戦いは、政府や軍レベルのみでなく、市民社会も含めて一致団結して取り組むべきものである」と述べている。そして、「市民の生命や社会をテロから守ることは、今後も更に重要性を増し、更に困難さを増していくと考えられる」という。では、市民としてどうすればいいのか。残念ながら、本書からその答えを引き出すことはできない。まずは、現状を理解することからはじめようということのようだ。本書は、『国際テロリズム101問』の続編で、105問からなっている。

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