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2016年06月07日

『北極大異変』エドワード・シュトルジック著、園部哲訳(集英社インターナショナル)

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 本書表紙見返しに、つぎのような要約がある。「地球気温上昇による解氷、氷河の後退、海流の変化などの結果、北極圏の生態系は急速に変化している。さらに北極海の航行が可能になったことにより、石油や天然ガスなどの資源開発が加速度的に進み、法整備や事故対策がまったく追いついていない。著者は、異変が起きている北極圏の現場へ向かい、綿密な取材をもとに起こりうる危機を一冊にまとめた。国土に北極圏をもつカナダ人が書いた、北極のすべてがわかる唯一の書!」。最後の文は、赤字で強調されている。

 著者のシュトルジックについては、略歴がつぎのように紹介されている。「35年以上、北極圏の踏査をしているジャーナリスト。優秀な環境報道に与えられるグランサム賞を受賞したほか、カナダの最古の科学学会から科学理解への傑出した貢献を讃えて授与された創立者賞など数々の受賞歴がある。また、マサチューセッツ工科大学、トロント大学のフェローであり、北極圏加英セミナーにおいて、世界的問題のなかで北極および北方世界が占める位置に関する報告担当者に任命された。現在はカナダ、キングストン市のクイーンズ大学にある、クイーンズエネルギー・環境政策研究所、政策研究大学のフェローを務めている」。

 本書は、7章と「第8章 結び」からなる。それぞれの章の扉には、その章を象徴する写真とキャプションが添えられている。これらの扉の頁から本書の概略がつかめる。第1章「北極条約の必要性」のキャプションは、つぎの通りである:「このカナダ政府のベースキャンプは、高緯度北極圏のボーデン島沿岸近くにある。カナダ、米国、ロシア、ノルウェー、デンマーク各国は、現在どこにも属さない地域の領有権を主張し、北極世界の地図を書き改めようとしている」。第2章「北極海-眠れる巨人の覚醒」は、「エルズミア島のオットー・フィヨルドにて。海氷が溶け、タイヘイヨウザケや北極圏近辺の海洋哺乳動物に新たな通り道が開かれる」。

 第3章「北極の暴風-ニュー・ノーマル」は、「ロシア・チュコタの人々。衣食を北極圏の海洋哺乳動物に依存している先住民族にとって、自給のための狩猟はますます難しくなるだろう」。「ニュー・ノーマル・・・リーマンショック後の様変わりした国際経済を「新たな常態」と呼ぶ皮肉な表現」。第4章「北極のるつぼ」は、「2012年にメルヴィル島で発見されたハイイログマとホッキョクグマの雑種。その春に、三頭のハイイログマとまた別の雑種を目撃したが、それほどの高緯度でのクマの群れは前代未聞だった」。

 第5章「北極の王はもういない」は、「カナダ・ハドソン湾の北西部、ウェイジャー湾にて。海氷の融解が早まっているため、ホッキョクグマにとって、自分たちの食糧の95%に相当するアザラシ猟の期間は短くなってしまった」。第6章「岐路に立つカリブー」は、「ユーコン準州北部のポーキュパイン・カリブー。過去20年間、乱獲などさまざまな理由で、カリブーとトナカイの数が急速に減ってきている」。

 第7章「ドリル、ベイビー、ドリル」は、「マッケンジー・デルタにて。背後に見えるのは、ガスハイドレートからメタンを抽出しようとする実験設備。日本とカナダの共同作業である。かつては手の届かなかった埋蔵物、すなわちエネルギー資源が海氷の融解によって姿を現しつつある」。「ドリル、ベイビー、ドリル・・・2008年、サラ・ペイリン(元・副大統領候補)が共和党全国大会の演説で発言し、民衆に支持され、共和党のスローガンのようになった」。第8章「結び」は、「氷河学者のジャック・コーラーが、スピッツベルゲン島ニーオルスン近くのコングスヴェーゲン氷河上でドリルの準備をしている。ニーオルスンにはノルウェー人たちが管理していた国際研究センターがある」。

 本書を通じて、著者は「将来北極圏で起きることが世界全体に関係する」ことを力説し、「みんなで考えることをしてこなかった北極圏の諸問題について」解決するためには、「科学的理解が決定的に重要」だと主張している。すでにその取り組みがはじまっていることを、つぎのように紹介している。「世界気象機関と国際科学会議がスポンサーになった二〇〇七-二〇〇九年の国際極年IPYの期間に、六二カ国が数億ドルを持ち寄って、広範囲にわたる物理学、生物学、社会学の研究・調査をするために何千人もの学者を北極圏へ送り出した」。

 そして、つぎのように本書を結んでいる。「理想的には、この国際討論会[国際極一〇年]で科学者、先住民、産業界代表、政策決定者を一堂に集めて、いつしょに未来へのロードマップを描きたい。適切に組織化されれば、森林火災、ツンドラ火災、海面上昇、沿岸侵食、野生生物の個体減少、侵入種、資源開発、商業海運、原油流出など切迫した脅威に対応できる、各地方に小ぶりの先駆的取り組みを配置することもできるだろう。理屈の上では、このような各地方の先駆的取り組みで実施された解決策を吸いあげ、北極圏全体の政策立案者と分かち合うことになるだろう」。「いわゆる北極の時代はやってくる。だが、すみやかな行動が取られなければ、私たちは準備不足のまま次々に虚を衝かれることになるだろう」。

 これまで北極圏以外で起こっている問題にたいして、「世界全体に関係する」ことがわからない「産業界代表、政策決定者」によって、「科学的理解が決定的に重要」であることが無視されてきた例はいくらでもある。それでも自然科学者、社会・人文科学者は、研究成果を持ち寄り「切迫した脅威」に立ち向かわなければならない。北極圏でも、南シナ海でも起こっている問題は、人類・地球の未来を考えることで、「産業界代表、政策決定者」の個々の利害を乗り越えることができる。

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