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2016年05月17日

『戦時日本の国民意識-国策グラフ誌『写真週報』とその時代』玉井清編(慶應義塾大学出版会)

戦時日本の国民意識-国策グラフ誌『写真週報』とその時代 →紀伊國屋ウェブストアで購入

 ひとつの資料を題材に、共同研究をすると思わぬ成果が出てくることがある。国策グラフ誌『写真週報』を総合的に分析した本書は、従来扱いにくく「無価値な情報として一蹴することも可能」な資料の使い方を示しただけでも価値がある。扱いにくい理由を、編者の玉井清は、つぎのように述べている。「従前の研究においては、言論統制下の戦時メディア、とりわけ『写真週報』のような戦時国策グラフ誌は、政府による都合のいい情報だけが掲載されているとの理由から、加えて写真を中心とした画像情報であり文字情報ではないとの理由から、これを軽視し正面から分析対象にすることは避けられる傾向にあった」。

 そこで考えられたのが、「『写真週報』に見出される内容と実際との乖離」の「確認や補正を行なう」ために、「自由主義の立場から外交評論活動を行なった清沢洌の日記」を基底においたことである。各章に、この『暗黒日記』が引用されているということは、共同研究の考察対象として、『写真週報』のほかにこの日記があったことを示している。「清沢の日記は、時代批判の精神から戦時下の政府並びにメディアが流す情報と現実との間に生じた矛盾を衝き、それを刻銘に記した日記として知られている」。

 「清沢のように言論統制がかかりにくい外国語の放送や新聞雑誌に接する機会に恵まれ」ない「一般国民は、『写真週報』のように検閲を通過した新聞や雑誌を主たる情報源とし、それらに基づき自らの考えを形成し、各人の意識を育んでいた」。その対比を通して、「『写真週報』に描き出された内容」から「同時代の国民の生活や考え」を探求していったのが本書である。

 本書は11章からなり、その構成はつぎの通り説明されている。「第1章では、『写真週報』の沿革から、そのメディアとしての特性を位置づけるとともに、誌面構成の変化を含めた概要を明らかにしている。第2章から7章までは、『写真週報』誌上より看取できる国民が直面した国内問題に検証を加えた。第2章は、国民が生きるために必要不可欠な食糧問題について、第3章では、節約や貯蓄の奨励を通じ政府が理想とした模範的国民生活像について、第4章では、空襲に対応した民間防空体制確立に向けた啓蒙について、第5章は、軍需に対応し労働力調達のため必要とされた労務動員について取り上げた。第6章は、国家総力戦に勝ち抜くために推進された健康増進行政について、第7章は、児童、生徒、学徒の動員を中心とした戦争との関与について、各々検証を加えた」。

 「第8章では、戦局報道や兵器などの軍事情報がどのように紹介されたかについて検証を加えた上で、第9章から11章までは、対外観に焦点を当てた。第9章では、中国満洲を始め植民地を含めた東アジアについて、第10章では、敵国になる英米について、第11章では同盟国となるドイツを中心に、各々その描かれ方を考察した」。

 本書で明らかになったことをまとめるのは、簡単ではない。「あとがき」には、結論にかえて、つぎのような説明がされている。「戦後のように世論調査が整備されているわけではなく、あるいは現代のようにその意識調査を行なうこともできない時期を扱うに当たり、課題となったのは、国民の意識を何により読み取るのか、その材料の選定であった。議論の中で俎上に上げられたのが、一般国民向けにわかりやすく編集された戦時国策グラフ誌『写真週報』であった。そこには、同時代の一般国民の生活を映し出す写真や挿絵等の画像が多数掲載されているため、その報道内容を検討すれば、少なくとも政府が期待する国民像や国民意識に迫ることができるのではないかとの提案がなされたのである。当然のことながら、同紙に描き出された内容は、政府が理想とした疑似空間であり現実とは異なるゆえ、果たして考察対象として的確であるか、分析結果に意味を見出すことはできるのか、ということも問題となった」。

 これらのことを意識したうえでのそれぞれの論考は、その問題の克服を目ざしたはずで、本書の論考で克服できなくとも今後の課題としたはずである。本書の執筆者は7名で、11章を書いている。複数の章を担当しただけでも、問題を複合的に捉える目をもったということができるだろう。それぞれの執筆者の今後に期待したい。

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