« 『戦争と新聞-メディアはなぜ戦争を煽るのか』鈴木健二(ちくま文庫) | メイン | 『小さな民のグローバル学-共生の思想と実践をもとめて』甲斐田万智子・佐竹眞明・長津一史・幡谷則子編著(上智大学出版) »

2016年04月12日

『戦時下の日本仏教と南方地域』大澤広嗣(法蔵館)

戦時下の日本仏教と南方地域 →紀伊國屋ウェブストアで購入

 本書の狙いは、「戦時下の日本仏教は、東南アジアに対してどのような関与をなしたのか。その関与は、国家のいかなる指示系統で施策が実行されて、仏教界関係者が動員されていたのか。そして、仏教界から国策協力としていかなる働きかけがあったのか。宗教研究の立場からそれを明らかにすること」である。

 本書の課題は、つぎのように説明されている。「「南方進攻における日本仏教の応用」の具体的内容について、明らかにすることである。ここでの「応用」とは、政府や軍部により仏教者を動員した諸活動を指し、布教活動が主たる目的ではないことに留意されたい。対する仏教側でも、調査活動と文化工作を通して南方地域での影響力拡大を行ったのである。いわばそれは、日本仏教による南方進出の「方便」であった」。

 本書は、序論、3部全10章、結論からなる。「導入にあたる「第Ⅰ部 戦時体制と仏教界・仏教学界」は、南方地域へ送り出す側の日本本土における仏教者の動きについて述べたものである。それを踏まえて二本柱で事例の分析を行う。「第Ⅱ部 南方進攻と仏教学者の関与」では、僧籍を持った学者による調査活動や宣撫工作を通した戦争への関与を述べる。「第Ⅲ部 日本仏教の対南文化進出」では、布教活動ではない文化工作として南方地域に進出した仏教界の動向を述べる」。

 そして、つぎのような結論を得た。「日本仏教のアジア関与について、東アジアの植民地の場合は、日本人移住者への布教活動や社会事業を主たる目的として、寺院や布教所などの施設を置いたが、個別の宗派を主体として進出する場合が多かったのに対し、南方地域は、開戦を前後して武力進駐と急激な占領地の拡大を行ったが、日本仏教は文化と学術を通して関与を行った。しかもその関与は、各宗派による個別の進出ではなく、仏教界の連合組織及び特定の宗派を背景としない各種団体が、政府・軍部との協働により行われたのである」。その理由は、関与した時期の差異、統治形態の差異、仏教系統の相違であった。

 このような差異を比較することで、著者大澤広嗣は、日本の仏教界が「布教ではなく、文化と学術から関与するという方法を採っていた事実が見えてくる」という。「現地の仏教は、日本仏教と大きく異なり、布教活動を行ったところで、現地に受け入れら[れ]ないことは明白であった。そのため、民衆ではなく知識人層や指導者層への働きかけが効果的であると考えられた。そのために高度な専門知識を持つ仏教界の知識人すなわち学僧によって、文化と学術による参画を行うこととなったのである。政府・軍部からの動員により、仏教関係者は事前の調査活動から進攻時の宣撫工作、平定後の宗教行政から文化工作までの諸場面において、関与したのであった」。

 仏教界が、なぜ国策に関わったのかは、つぎのように説明している。「仏教宗派は、「宗教団体法」に基づき設立認可を受けており、政府の指導監督下にあったためである。また連合組織の大日本仏教会は、「民法」に基づく公益法人として設立されており、当時の社会的文脈では、戦時下における国策に貢献する「公益」目的の活動が求められたのである。そして各宗派の管長は、天皇から任命された勅任官という待遇を受けた。つまり各宗派の管長は、高級官僚と同等の扱いを受けた仏教者として、国家への協力を求められたのである」。

 だが、これらの活動は、東南アジア現地で歓迎されなかった。それは、まず「対等な協調関係ではなかった」からである。「日本にとって仏教は外来の宗教であるが、アジア諸地域の仏教に対して、日本仏教は優位にあることを標榜していたのである。それは、日本が官民を挙げて、アジアの盟主であると主張し、仏教界もその影響を受けていたためであった」。

 本書を読むと、仏教界の知識人も躊躇なく戦争協力していった実態が浮かびあがってくる。仏教そのもので主導権がとれないとわかると、関連する文化工作に従事し、宗教とはまったくかかわりない「侵略」の先導役となる現地調査さえおこなっている。つまり軍の圧力で協力せざるを得なかったのではなく、むしろ軍を利用して内外での勢力拡大をねらった活動をしている。東南アジアの仏教徒のことを、戦中、戦後に考えた日本の仏教界の知識人がいたのだろうか。「翼賛体制」とひと言でかたづけられない「軍部と仏教界の協働関係の実態」から問い直す本書から、こんにちのさまざまな「協働」の犠牲者を考えることもできるだろう。たとえば格差社会の犠牲者が、それにあたるのかもしれない。

→紀伊國屋ウェブストアで購入

トラックバックURL

このエントリーのトラックバックURL:
http://booklog.kinokuniya.co.jp/mt-tb.cgi/5840