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2015年08月18日

『勝つまでやめない! 勝利の方程式』安藤宏基(中公文庫)

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 インスタントラーメンは、2012年に世界の総需要が年間1千億食を超えた。著者は、インスタントラーメンを最初に開発した創業メーカー日清食品の2代目社長である。日清食品は、国内25億食、海外110億食、計135億食、全世界の13.5%のシェアをもつ。著者は、「わずか一三・五%に過ぎない」といい、「世界市場で販売数量、金額ともにダントツの世界一」をめざしている。

 本書の裏には、つぎのような要約がある。「「カップヌードルをぶっつぶせ!」をスローガンに、徹底した自己否定のマーケティングで社内改革をつらぬいた筆者が、社長業三十年の苦闘の後にたどり着いた経営観を語る。試行錯誤の末に編み出した「安く作って安く売って儲ける」ビジネスモデルとは。「マーケティングはアートである」と喝破した上で、ブランド・マネージャーに必要なセンス七か条を説く」。

 その七か条とは、①飽くなき好奇心、②非常識な発想、③コンセプト・デザインのセンス、④先を読む予知能力、⑤勝つまでやめない情熱、⑥自己否定する勇気、⑦肌感覚を持つ、である。そして、この7つを総括して、つぎのようにまとめている。「勝つまでやめるなと言っておきながら、すぐ戻れとか、自ら破壊せよと言っている。矛盾があると思われるかもしれない。しかし、マーケティング・コンセプトを四次元モデルにデザインする場合には、一人の頭脳の中にこれくらいのフレキシビリティーが存在してもいいのではなかろうか」。「創業者・安藤百福の語録に「臨機応変、円転自在」という言葉がある」。「マーケティングは生き物であり、時間との闘い、迷いと決断の繰り返しだから、いい加減に見えるようでも、「一本芯の通った柔軟性」を持つことが大切だと思う」。

 「ダントツの世界一」をめざす著者の戦略は、「公益性」と「業界全体の成長」である。「公益性」について、つぎのように説明している。「公益性を優先するならば、もはやインフラ(社会基盤)の整備を一企業の技術開発に頼る時代ではないのかもしれない。トヨタ自動車やパナソニックの事例[特許を無償提供]はCSRに通じる広義の「公益資本主義」と言えるのではなかろうか。公益資本主義とは、破綻した米国型の「金融資本主義」でも、台頭する中国型の「国家資本主義」でもない。日本が世界に貢献していくための第三の道として、原丈人(はらじようじ)氏(アライアンスフォーラム財団代表理事)が提唱する「社会全体の利益を優先する日本発の経営哲学」なのである」。このことは、創業者の「会社は野中の一本杉であるよりも、森として発展した方がよい」ということばに通じ、「業界全体の成長」の重要性をも示している。

 「業界全体の成長」については、つぎの説明がある。「二〇一四年十一月、私が会長をしている「世界ラーメン協会(WINA)」の食品安全会議をシンガポールで開催した際、「この業界はどこか一社がミスをすると、不安情報があっという間に世界中に伝わって総需要が低下する。安全性技術と栄養・健康対策の二つについては今後、〝非競争分野〟として業界全体で取り組むことにしたい」と提案した」。「だいたい競争の激しい業界では、トラブルや不祥事があるとライバルメーカーを突っついて叩こうとする。足の引っ張り合いが起こる。メディアがこぞって取り上げる。するとますます消費者の不信感を招いて、トラブルの連鎖が起こる。結果的に総需要が低下する。品質問題が発生したら力を合わせて、早く不安情報の芽を摘み取らないといけない。初動を間違ったために、社会の批判にさらされ、経営危機に陥った会社をいくつも見てきた。企業にとって技術開発やマーケティングの分野で競争することは大切だが、安全性や栄養・健康など公益にかかわる部分では、〝非競争分野〟とするのが正しい社会貢献の道だと思う」。

 「やめるな」と言いながら「すぐに戻れ」と言う。「競争」といいながら「非競争」と言う。矛盾しているようだが、創業者の「臨機応変、円転自在」のことばともども、実社会でもまれてきたから言えることばである。「公益性」や「社会貢献」がわからない者がいると、業界を守るために「遅れた」ものにあわせようとする。技術やマーケティングなど優れたものは、さらに上を目指して切磋琢磨するが、裾野が広くなければ、やがて継承者がいなくなって衰退していく。

 その継承者である3代目が、表舞台に登場した。2015年2月の新任挨拶で「Beyond Instant Foods-インスタント食品を超える!」を宣言した。その会場に、わたしもいるはずだったが、別の用事ができて出席できなかった。生で聞けなかったのが残念である。この3代目が登場するのにあわせるように、カップヌードルが変わった。ラタトゥイユ(フランスの野菜煮込み料理)やバーニャカウダ(イタリアの鍋料理)といってもわかない人もいるだろうが、食べるとカップヌードルのイメージが変わる。こうなると、カップヌードル「そうめん」も違和感がなくなる。発売順番を間違えていたら、まずダメだっただろう。

 2014年度の海外の売上高比率21%見込みを、25年には50%にし、1兆円企業にしようとしている。3年間海外戦略の強化に取り組んだ3代目に、いままでにない「楽しさ」を期待したい。

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